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ProductZine Dayの第2回開催です。

ProductZine Day 2024 Winter

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【デブサミ2021】セッションレポート

アジャイル文化をチームから組織に拡張するプロダクトマネージャーの挑戦【デブサミ2021】

【19-E-4】アジャイルカルチャーをチームから組織に拡張し、OKRを組み合わせてプロダクトの成長を加速させる


スクラムマスターによる意識の変化が成長のカギに

 しかし、スプリント期間中にスプリントゴールを阻害する要因が生じた場合、チームはどのように動くべきなのか。原則的に、スクラムチームは新しいことを学んだ瞬間に適応することが求められる。しかし、その意思決定ができなくなる場面として、例えば、くだんの事例でいえば、必要以上に花の種類を増やしたり、別のものを撮影したりと、ついつい完成ゴールを越えた過剰品質につながることが少なくない。

 上園氏自身も、スクラムを導入した直後は、そういった状況だったという。開発と運営が分かれており、エンジニアには「良いものを作りたい」という思いはあったものの、頻繁な手戻りが発生していた。そこでエンジニアが集まって「アジャイルサムライ」を読み込んだものの、導入期は本質的な理解に至らず、表面的なプラクティスに終始していたという。「開発自体は苦しい状態にあった」と振り返る。

 そこで、ギルドワークスの中村洋氏にコーチを依頼し、そこから2年をかけてスクラムでの開発ができるようになり、徐々にスクラムマスターに頼らずともスクラムを実践できるチームになっていったという。その時期を振り返り、上園氏は「上手くいき始めた時から、問いの対象が変わってきた」と評する。

 「上手くいっていなかった時は、イベントやプラクティスが検査の対象だったが、チームとして機能するようになった時には、問いの対象が価値基準などの原則に移ってきた。はじめから上手くいったわけではなく、経験して自分たちで学習してきた内容をチームに蓄積し、自分たちで定めた『なりたいチーム』を目指して自己組織化を進めてきた」と語る。そして、始めるために参考になった書籍として上園氏は『アジャイルのアイデアを組織に広めるための48のパターン』(丸善出版)を紹介した。

部分的スクラムとOKRのジレンマから、アジャイルカルチャーを組織に拡張することを決意

 次にスクラムをチームから組織に拡大するまでの経緯について紹介された。2年前、スクラムがチームで浸透したタイミングで、全社的な目標管理方法がMBO(Management by Objectives)からORK(Objective and Key Results)に変更されたという。しかし、当時のORKは1つのオブジェクトに対して必要以上に多くのKRが設定されており、定性的なものも混在していたため、メンバーからは「目的がわからない」という不満の声が上がっていた。

 上園氏は、チームとしては上手く進んでいたにもかかわらず、目の前の仕事だけに黙々と取り組むようになった様子を見て、組織のあり方に対して疑問を持つようになった。そんな時にRSGT(Regional Scrum Gathering Tokyo)2020に参加する機会を得て、大きな刺激を得ることになる。

 「参加者と話す中で、エンジニアでも組織改革に貪欲に関わろうとしている人が多いことに驚いた。そして、躊躇していた自分が恥ずかしくなった」と上園氏は語る。そして事業部長への着任の依頼があり、「自分が関わって組織が良くなるなら」と引き受けた。直後から行ったのが、OKRを活用した全社的なアジャイルカルチャーの浸透だという。

 くだんの物語で言えば、「アルバム」というインクリメントを事業価値とするためには、顧客に購入してもらう必要がある。その事業目標である「アルバム購入者1000人」に到達するためには、それぞれのチームでOKRを持ち、達成しなければならない。この時、作成チームには「出荷は間に合っているか」「販売は上手くいっているか」「顧客の要望は聞けているか」などの問いが生じてくるが、隣のチームが何を行っているのか知らないことも多い。時、どんなチームがあるのか、どんなお客さまがいるのか、知らないままということもありえる。

 しかし、これらを透明化して知ることができれば、例えば販売チームの様子から「在庫しやすいアルバムとはどんなものか」と考えたり、カスタマーセンターの声をもとに「お客さまが好む内容は何か」と企画を考えたりすることができるというわけだ。「問題を可視化し、課題意識をチームで育み、共有できるのもOKRの効果ではないか」と上園氏は語る。

 上園氏は、スクラムとOKRの関係性を上図のように表した。スクラムチーム以外の、先述の販売チームやカスタマーセンターが担っているのがオレンジの部分だ。この構造を理解していないとスクラムとOKRの併用で効果を出すことは難しく、「スクラムチームとして良かれと思って行ったこと」が無駄になることも少なくない。またOKRのストレッチゴールの設定において、スクラムが想定している計画規模を超えた複雑性へ対応する必要がある。

 上園氏はチームの領域にとらわれず越境することによって、この複雑性に対応することを目指してきた。そこで、利用できるのがスクラムの考え方にある「確約」「集中」「公開」「尊敬」「勇気」の価値基準だ。スクラムをベースとしたアジャイルな価値観を抽出して、組織全体に適応させようというわけだ。

事業価値を高める顧客理解と組織内の関係作り

 上園氏がRSGT2020に参加した当時は、事業部内の組織は分断され、それぞれのチームがサイロ化し、リーダーが孤軍奮闘していた。そして現場は「斧を研ぐこともできず、切ることに精いっぱい」といった気分に覆われていた。

 「それぞれが何らかの責任を持ち、他の人の状況が見えていないと、ますます責任の圧から立ち止まることが不安になっていた。そこで一人で抱えて悩む状況を打破することをまずは目標とし、まずはリーダー同士が交流できる場を作りたいと考え、雑談ができるようなお互いを知る場を設けた」と上園氏は語る。

 1つめが「モア・ギャザリング」と呼ばれるイベントだ。上園氏の事業部が全社的な参加を呼びかけたイベントで、「皆で定期的に同じ方向へ向き直る」「失敗を受け入れチャレンジを推奨する文化を醸成する」などを目的としている。1か月に1回、現在はリモート中心だが、基本は飲食をしながら、日頃のチャレンジをたたえ合う文化醸成を意識しているという。

 続いて、「ミドルアップダウンOKR」というOKRの共有も行っているという。以前の全社のOKRは上層部が話し合って決め、それを事業部やチームにブレイクダウンしていく流れになっていた。それを事業部内のリーダーが集まってOKRを振り返り、それに基づいて1年後のなりたい状態を設定し、実現するキーワードやOKRに落とし込んで全社に提案するといった手法にした。それを上層部で協議し、改めて事業部、事業部からチームへと伝えていく。そうした手法からこの「ミドルアップダウン」の名がつけられた。参加型の過程を経ることで、たとえ提案したOKRと異なるものに決まったとしても関わった実感が得られるという。

 そして3つめに「WatchParty」が紹介された。社員複数名でRSGTのセッションを見ながら、意見交換をしていくもので、同じ事業部だけでなく他部署から、上層部や社長までも参加しており、現在までに25回、87人が参加するようになっている。そこから派生して、有志でのアジャイルサムライの読書会も実施した。その他にも、「Good & New」という、5~6人のランダムなグループに分かれて24時間以内にあった「よかったこと」「新しい発見」を共有する活動など、さまざまな活動が展開されている。なお「モブプロ」「ペアプロ」なども行いたいが、こちらについては「メンバー間の関係性ができてから」がおすすめだという。

 上園氏は「ビジネス価値を最大化するには、顧客価値の最大化が必須。そしてそのためには、組織のメンバー同士の関係性の質が大切であることがわかった。自分たちが中心に据えたかったのは、アジャイルの背後にある価値だったことがわかった」と語る。しかし、ビジネス価値とは「顧客にとって意味のあること」であり、それが担保されていなければ、どんなに頑張っても価値を創出することはできない。つまり、コードを書くことでもなく、プロセスを改善することでもなく、顧客を知り、課題や解決した時の笑顔を想像することが重要というわけだ。

 上園氏は「スクラムやOKRなどの手法もいいけれど、まずはプロダクトが提供する“価値”を見極め、その価値を徹底的に磨いてほしい。それが本当に価値があれば、顧客は必ずプロダクトを使い続けてくれるはず」と語り、「ぜひ企業の上層部の方は、チームの価値基準を向上させる手助けをしてほしい」と訴え、セッションを終えた。

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://productzine.jp/article/detail/267 2022/03/31 14:05

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