「実行するAI」「チェックする人間」という役割分担は将来行き詰まる?
こうして自社サービスへの生成AIの取り込みを着々と進める同社だが、市橋氏はこれから生成AIをさらに活用していく上で解決しなければならない課題について次のように述べる。
「生成AIを有効活用するためには、とにかくデータの品質が重要です。品質の悪いデータを大量に集めるより、少量でもいいから高品質のデータを集めた方が有利です。しかし10年以上前から『Data is the new oil』と言われ続けてきたにも関わらず、実際にはほとんどの企業・組織でデータの整備が進んでいないのが実情です。まず真っ先に、この課題を乗り越える必要があると思います」
また同社が長らく頭を悩ませてきたように、一般ユーザーは「自然言語を使って何を質問してもいい」と言われても、逆にその自由を持て余して適切に生成AIを使いこなすことができない。このいわゆる「ブランク・キャンバス症候群」と呼ばれる課題を乗り越えるためには、「チャットを超えたUXの探求が必要だろう」と市橋氏は指摘する。
さらには、今後生成AIの適用範囲が広がっていくと、「人間と生成AIの役割分担」が問題化してくるだろうと同氏は予想する。現時点では個別のタスクの自動化・省力化に利用されている生成AIだが、今後活用がさらに進むとワークフローの中に組み込まれ、複数のタスクを制御するようになってくる。そうなると今度は、生成AIが適切にワークフローを制御できているかどうか人間がチェックする必要性が出てくる。
つまり「実行するAI」「それをチェックする人間」という役割分担が徐々に出来上がってくることになるが、同氏は「チェックするだけの役割で、果たして人間はやりがいや楽しみを感じられるだろうか?」と疑問を呈する。
「例えば最近注目を集めているGitHub Copilotは、AIがプログラムの設計から実装まで行ってくれるので、人間はレビュー・修正する作業だけで済みますとうたっています。しかし設計やコーディングの楽しみを奪われた人間が働きがいを感じられるかどうか大いに疑問ですし、実務知識を持つ人材を育成することもできなくなってしまいます。こうした観点も加味した上で生成AIと人間の役割分担を考えないと、いずれは行き詰まってしまうのではないかと危惧しています」(市橋氏)