そもそも、プロトタイプとは何か?
プロトタイプと一口に言っても、人によってその認識は異なるようです。「プロトタイプとは何か?」が分かりやすくまとまっている良書『失敗から学ぶ技術』(翔泳社)によると、プロトタイプの定義は数えきれないほど存在するそうで、関係者の認識あわせが難しい概念の一つだそうです。とはいえ、本書に書かれているとおり、プロトタイプとは「完成する前のモノや体験」全般を意味しており、その内容や表現の忠実度は、どのくらい完成品に近いかによって異なるものと言えるでしょう。
私たちが、DSR(デザインスプリントリサーチ)で、仮説の探索や検証に使うプロトタイプは、大きくわけて以下の3つがあります。DSRとは、Google社のリーン開発メソッド「デザインスプリント」をベースとしたプロダクト開発手法で、顧客の課題発見~解決策の探索~プロトタイプ制作~仮説検証インタビューの一連のプロセスを、チームで短期間に回転させるプログラムです。
- 「顧客の課題(ペインポイント)」を探索するためのプロトタイプ
- 「解決策・ソリューションの仮説」を探索/検証するためのプロトタイプ
- 「解決策・ソリューション」の価値や機能を検証するためのプロトタイプ
3つとも表現が似通っていて分かりにくいので、具体的にどのような違いがあるのかを見ていきましょう。
1:「顧客の課題(ペインポイント)」を探索するためのプロトタイプ
プロトタイプとは「完成する前のモノや体験」のことですが、開発初期のプロトタイプをもう少し具体的に定義すると、「アイデアを人に伝えるためのツール」とも言えるのではないでしょうか。その点で、最初にプロトタイプが必要になるのは、顧客の課題(ペインポイント)を探るインタビューです。ここでは、顧客の「悩み、困りごと、ニーズ」の仮説をなるべく網羅的に表現した資料を提示することになります。
具体的には、顧客の課題の仮説を「1~2行の説明文」にまとめ、一目で理解できるように一覧にまとめます。その際の表現方法は「ふきだしの文言」でも「図やイラストが入った紙芝居」でもよいのですが、インタビュー対象者の意見を引き出すための資料なので、あまりキレイに作り込みすぎず「ラフ」な感じが伝わるものがよいと思います。
また、顧客の課題が複数のプロセスや階層に分かれる場合は、伝わるように整理することも大切ですが、ここに出ているアイデアがすべてではないので、整理することばかりに気をとられないようにしてください。この段階では、「ここまでのアイデアを網羅的にまとめました。まだ探索の途中なので一緒に考えましょう」というスタンスが読み手に伝わるもの、いわゆる「アイデアのたたき台」のイメージで資料化するのがよいでしょう。チーム内や、インタビュー対象者と状況を共有すること、そこからまだ捉えられていない顧客の課題を引き出すためのプロトタイプだと理解してください。