山下祐樹氏
アメリカのハーバード大学を卒業後、MicrosoftやGoogleなどのテック大手や、“ユニコーン”と呼ばれる評価額10億ドル以上の未公開企業(当時)、Uberなどを経て、現在は、米プロダクト・デベロップメント企業「Figma(フィグマ)」のChief Product Officer(CPO;最高製品責任者)を務めている。
川延浩彰氏
下関市立大学経済学部卒業後、兼松エレクトロニクスに入社。その後、渡米を経て、カナダビクトリア大学でMBA(Entrepreneurship専攻)修了。帰国後、2011年3月からブライトコーブでマーケティング、営業などさまざまな業務に携わり、日本のメディア事業統括ならびに営業責任者を歴任、韓国事業GMを経て本社SVP兼代表取締役社長に就任。2022年1月にFigmaのVision「すべての人がデザインを利用できるようにする」に強く共感し、Figmaの日本カントリー・マネージャーに就任。
1:「ユーザーの中に入る」ことからすべてが始まる

──これまでさまざまなグローバル企業でプロダクト開発に携わってこられましたが、プロダクトと向き合う際に一貫して大切にしている姿勢や視点があれば教えてください。
山下祐樹氏(以下、山下):どの会社でも「自分が実際にユーザーとして使用しているプロダクトに関わりたい」という自分のモチベーションを前提にしています。その上で大切なのは、ファンとしての自分の視点に固執しないこと。ですから各会社にジョインしたら、ユーザーの視点をより深く理解すべく、まずはユーザーフィードバックに身を投じて、「ユーザーの靴」を履くように、他者の視点からプロダクトを見直すことを大切にしています。
特に印象深いのは食事の配達・配車サービスを展開するUberでの仕事です。最初は「いちユーザーとしてサービスが好きだった」という理由で入社しましたが、ユーザーフィードバックに耳を傾けるうちに、Uberのビジネスにおいて重要なのはドライバーなのではないかと考えるようになりました。そこでドライバーのアプリ開発に携わることになったのです。自分自身がUberのドライバーとしてアプリを使用したことがない中で、ドライバーの体験をいかに改善していくかという課題に向き合う過程は、個人的には大きなチャレンジでしたね。
──Figmaに入社してから、サービスの捉え方が変化した経験はありましたか?
山下:Figmaを外から見ていたときは「デザイナーのためのツール」というイメージが強くありましたが、実際に中に入ってみると、実は全体の3分の2にあたるユーザーはデザイナーではなく、開発者やプロジェクトマネージャーであることが分かってきました。
そう考えると、ユーザーの最終的な目的は「デザイン」ではなく「プロダクト」を作ることになるため、デザインの工程だけではなく、デザインチェーン全体を広く捉えなければいけません。そこで、「広義でのデザインとはどういうものか」という問いを突き詰めるところから開発が始まりました。
2:Figma SitesとFigma Make──「プロダクトの断絶」を埋める新しい道
──2025年5月に行われた年次カンファレンス「Config 2025」でFigmaの大幅な拡張が発表されました。これらの新機能追加の背景には、どのようなユーザーの課題があったのでしょうか?
山下:まず前提として、Figmaではデザインにとどまらず、アイデアからプロダクトが完成するまでの一気通貫で実現するプロセス全体を支えることを重視しています。
しかしその過程において、これまではデザイナーが作り上げたデザインを、プロダクトとして実装する開発者に手渡す際に「翻訳」がうまくいかず、当初の想定とは違ったかたちで反映されてしまう課題がありました。
加えて、プロジェクトチームではたくさんのアイデアが生まれますが、それらをプロトタイプに落とし込むまでに膨大な時間がかかってしまうことから、すべてのアイデアを検証しきれず、あらかじめ数を絞らざるを得ないという課題もありました。
そうした課題を踏まえて生まれたのが、「Figma Sites」と「Figma Make」です。

「Figma Sites」では、デザイナーがコードに左右されず、自分自身のビジョンにもとづいてデザインしたものをそのままWeb上に反映できるような機能を実装しました。これにより「翻訳ロス」の軽減が期待できます。
「Figma Make」はアイデアを即座にプロトタイプ化する生成AIベースの新機能を搭載しており、アイデアをプロトタイプ化するまでの手間と時間を大幅に短縮でき、より多くのアイデアをエクスポートしやすくなります。
──こうした新機能の追加に対して、日本企業からはどのような声が上がっていますか?
川延浩彰氏(以下、川延):「Config 2025」に参加されていた日本の企業さまからは、特に「Figma Sites」について「帰国後すぐに使ってみます」といった率直でポジティブなご感想をたくさんいただいています。
「Figma Make」の機能は「Figma Sites」と比較するとやや専門性が高いこともあり、デジタルネイティブな企業さまからは「すぐに使ってみたい」といった反応をいただいたものの、現状では企業間の濃淡がある状況です。ただ、日本のマーケットにおいても、AIは非常に注目されている領域なので、今後ご利用いただく企業さまが増加していくことが予想されます。