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ProductZine Day&オンラインセミナーは、プロダクト開発にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「ProductZine(プロダクトジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々のプロダクト開発のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

ProductZine Dayの第4回。オフラインとしては2回目の開催です。

ProductZine Day 2025

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特集記事

Figma CPO 山下祐樹が語る、AI時代のデザイン思想

 近年、AIの進化がデザイン領域にも本格的に波及し、業務プロセスやアプローチに変化をもたらしている。ブラウザ上で共同編集可能なプロダクト開発プラットフォーム「Figma」のCPO(最高製品責任者)・山下祐樹さんと、Figma Japanのカントリー・マネージャー・川延浩彰さんに、AI時代における「デザインの本質」との向き合い方を聞いた。2025年5月に開催された年次カンファレンス「Config 2025」では、Figma史上最多の新製品が発表された。中でも注目を集めたのが、コード不要で直感的にWebサイトを構築・公開できる「Figma Sites」と、プロンプトから即座にコードを生成する「Figma Make」。AIを核に据えたこれらの機能は、誰もが自由にアイデアを形にできる未来を後押ししている。

山下祐樹氏

 アメリカのハーバード大学を卒業後、MicrosoftやGoogleなどのテック大手や、“ユニコーン”と呼ばれる評価額10億ドル以上の未公開企業(当時)、Uberなどを経て、現在は、米プロダクト・デベロップメント企業「Figma(フィグマ)」のChief Product Officer(CPO;最高製品責任者)を務めている。

川延浩彰氏

 下関市立大学経済学部卒業後、兼松エレクトロニクスに入社。その後、渡米を経て、カナダビクトリア大学でMBA(Entrepreneurship専攻)修了。帰国後、2011年3月からブライトコーブでマーケティング、営業などさまざまな業務に携わり、日本のメディア事業統括ならびに営業責任者を歴任、韓国事業GMを経て本社SVP兼代表取締役社長に就任。2022年1月にFigmaのVision「すべての人がデザインを利用できるようにする」に強く共感し、Figmaの日本カントリー・マネージャーに就任。

1:「ユーザーの中に入る」ことからすべてが始まる

山下祐樹氏
山下祐樹氏

──これまでさまざまなグローバル企業でプロダクト開発に携わってこられましたが、プロダクトと向き合う際に一貫して大切にしている姿勢や視点があれば教えてください。

山下祐樹氏(以下、山下):どの会社でも「自分が実際にユーザーとして使用しているプロダクトに関わりたい」という自分のモチベーションを前提にしています。その上で大切なのは、ファンとしての自分の視点に固執しないこと。ですから各会社にジョインしたら、ユーザーの視点をより深く理解すべく、まずはユーザーフィードバックに身を投じて、「ユーザーの靴」を履くように、他者の視点からプロダクトを見直すことを大切にしています。

 特に印象深いのは食事の配達・配車サービスを展開するUberでの仕事です。最初は「いちユーザーとしてサービスが好きだった」という理由で入社しましたが、ユーザーフィードバックに耳を傾けるうちに、Uberのビジネスにおいて重要なのはドライバーなのではないかと考えるようになりました。そこでドライバーのアプリ開発に携わることになったのです。自分自身がUberのドライバーとしてアプリを使用したことがない中で、ドライバーの体験をいかに改善していくかという課題に向き合う過程は、個人的には大きなチャレンジでしたね。

──Figmaに入社してから、サービスの捉え方が変化した経験はありましたか?

山下:Figmaを外から見ていたときは「デザイナーのためのツール」というイメージが強くありましたが、実際に中に入ってみると、実は全体の3分の2にあたるユーザーはデザイナーではなく、開発者やプロジェクトマネージャーであることが分かってきました。

 そう考えると、ユーザーの最終的な目的は「デザイン」ではなく「プロダクト」を作ることになるため、デザインの工程だけではなく、デザインチェーン全体を広く捉えなければいけません。そこで、「広義でのデザインとはどういうものか」という問いを突き詰めるところから開発が始まりました。

2:Figma SitesとFigma Make──「プロダクトの断絶」を埋める新しい道

──2025年5月に行われた年次カンファレンス「Config 2025」でFigmaの大幅な拡張が発表されました。これらの新機能追加の背景には、どのようなユーザーの課題があったのでしょうか?

山下:まず前提として、Figmaではデザインにとどまらず、アイデアからプロダクトが完成するまでの一気通貫で実現するプロセス全体を支えることを重視しています。

 しかしその過程において、これまではデザイナーが作り上げたデザインを、プロダクトとして実装する開発者に手渡す際に「翻訳」がうまくいかず、当初の想定とは違ったかたちで反映されてしまう課題がありました。

 加えて、プロジェクトチームではたくさんのアイデアが生まれますが、それらをプロトタイプに落とし込むまでに膨大な時間がかかってしまうことから、すべてのアイデアを検証しきれず、あらかじめ数を絞らざるを得ないという課題もありました。

 そうした課題を踏まえて生まれたのが、「Figma Sites」と「Figma Make」です。

既存のデザインをFigmaに貼り付けるだけでレスポンシブルなWebサイトを構築可能に。「Figma Sites」
既存のデザインをFigmaに貼り付けるだけでレスポンシブルなWebサイトを構築可能に。「Figma Sites」

 「Figma Sites」では、デザイナーがコードに左右されず、自分自身のビジョンにもとづいてデザインしたものをそのままWeb上に反映できるような機能を実装しました。これにより「翻訳ロス」の軽減が期待できます。

 「Figma Make」はアイデアを即座にプロトタイプ化する生成AIベースの新機能を搭載しており、アイデアをプロトタイプ化するまでの手間と時間を大幅に短縮でき、より多くのアイデアをエクスポートしやすくなります。

──こうした新機能の追加に対して、日本企業からはどのような声が上がっていますか?

川延浩彰氏(以下、川延):「Config 2025」に参加されていた日本の企業さまからは、特に「Figma Sites」について「帰国後すぐに使ってみます」といった率直でポジティブなご感想をたくさんいただいています。

 「Figma Make」の機能は「Figma Sites」と比較するとやや専門性が高いこともあり、デジタルネイティブな企業さまからは「すぐに使ってみたい」といった反応をいただいたものの、現状では企業間の濃淡がある状況です。ただ、日本のマーケットにおいても、AIは非常に注目されている領域なので、今後ご利用いただく企業さまが増加していくことが予想されます。

2025年5月に開催された「Config 2025」には世界各国から8500人以上が参加した

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3:「なぜ」を問う人間こそが、AI時代に価値を持つ

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この記事の著者

Asuamu(アスアム)

蜂谷智子が主宰する編集プロダクション。取材・編集・執筆を軸に、多様なストーリーを紡ぐ。深みのあるインタビューやリサーチに基づくコンテンツ制作を得意とし、記事・書籍・Webメディアの企画から執筆までを手がける。https://www.asuamu.com/

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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