はじめに──プロダクト戦略を「絵に描いた餅」に終わらせず、いかに「動かすか」
ファインディが運営するプロダクトマネージャー向けコミュニティ「PM Hub」では、実践知の共有を目的にLTと懇親会を組み合わせたイベント「PM LT Night」を定期開催している。2025年4月24日に開かれた今回のテーマは「プロダクト戦略を実行につなげるPMの思考と実践」。各社から登壇したスピーカーたちは、プロダクト戦略を「絵に描いた餅」に終わらせず、いかに「動かすか」に向き合った実践を語った。
編注
本記事では、「PM」はプロダクトマネージャーを指します。また、記事中の各位の所属および役職は、イベント開催時点(2025年4月24日)のものです。
LT1:『プロダクト戦略』を紐解く — 言語化・組織実装・実行までのリアル —
- 発表者:池田俊氏(株式会社タイミー CPO)
- 発表スライド
株式会社タイミーのCPOを務める池田俊氏は、同社が急成長を遂げる中で直面していた「全社戦略不在による属人的連携」から脱却し、戦略を言語化・実装・実行へと展開するプロセスを紹介しました。
「バラバラな即興演奏」から「ジャズセッション」へ
登壇冒頭、池田氏は当時のタイミー社内を「優秀なメンバーがそれぞれ自由に演奏しているバンド」と例えました。特に急拡大する中で、マーケティング、事業、プロダクトがそれぞれの最適を追い、全社戦略が不在だったことが課題だったと振り返ります。
このままでは施策が連携せず、属人的なものになると危機感を抱き、数か月間、経営や現場を巻き込みながら「全社戦略の言語化」から着手しました。そこでは「診断」「基本方針」「一貫した行動」の3層からなる「戦略のカーネル」をベースに、戦略の明快さと再利用性を重視しました。

「戦略マネジメント部」が支える自律的な実行体制
言語化に続くのが実行体制の整備です。タイミーでは、戦略テーマごとに全体DRI(Directly Responsible Individual)、さらには機能別にプロダクト・マーケ ティング・事業部それぞれにDRIを設定し、説明責任を負うスポンサーも設定しました。その上で、プロダクト組織では、実組織と仮想組織(Tribe/Squad)とを分けて運営する構造を導入しました(※)。
さらに特徴的だったのが、全社戦略を描く戦略チームを「戦略マネジメント部」としてプロダクト本部に移管したことです。これにより、このプロダクト本部が戦略をローリングしていく場所が作られたと言います。
また、組織間の相互連携の観点では、マネジメントレイヤーでの月次の部署横断定例や経営合宿、プロダクト本部メンバーによる地方支社への訪問など、複数レイヤーでの相互連携の仕組みを確立しました。
タイミー社では、既存の組織構造(実組織)に加えて、特定の目的に合わせて柔軟にチームを編成できるような仕組み(仮想組織)を導入しました。これにより、通常の組織体制では対応しきれない課題やプロジェクトに、迅速かつ効率的に取り組むことが可能になっています。
(※)実組織:通常の部署やチームなど、会社内で正式に存在する組織を指します。仮想組織:特定のプロジェクトや目標のために一時的に編成されるチームを指します。
総括
池田氏の取り組みは、戦略を「描く」だけでなく、「伝え、動かす」ためのための構造づくりの重要性を浮き彫りにしました。ガードレール(制約)を明確に引くことで、PMが自由な裁量のもと即興的な挑戦を発揮できる環境──それこそが、戦略の実行性を担保する「仕組み」であると教えてくれる発表でした。
