はじめに──成果を出した先にある「組織の器づくり」
今回は、1人目プロダクトマネージャー(以降、PM)が「成果を出した後」に直面する問い──「どうすれば、より大きな成果を出せる組織に育てられるか?」 に答えます。ここで言う「スケール」とは、単なる人員拡大ではなく「事業成長に耐えうる組織ケイパビリティを獲得すること」 を意味します。
言い換えれば、PMがプレイヤーとして価値を出すだけでなく、チームが再現的にプロダクトを前進させられる仕組みを作ることです。
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5.1 スケールの前に、まずは信頼と実績を積む
「組織をスケールさせたい」と思う前に必要なのは、「感謝される存在」となり、「成果を出した実績」を持つことです。いきなり仕組みから入っても、信頼がなければ浸透しません。まずは自らが実行責任を担い、プロダクトで成果を出すことで「この人に任せれば大丈夫」と思われる状態を作ることが重要です。
では、どのようなタイミングで「スケール」が必要になるのでしょうか? それは、プロダクトが軌道に乗り、事業が拡大し始めたとき。つまり、これまで1人で担っていた機能や判断が物理的・機能的に限界を迎えたときです。
ここで強調しておきたいのは、スケールは「目的」ではなく、「結果として現れるもの」だということです。
「スケールさせたいからする」のではなく、「プロダクトの成長曲線をさらに押し上げるためには、さらなるスケールがないとボトルネックになってしまう。故にスケールを考える」という順序でなければなりません。
5.2 スケールの順番を間違えてはいけない
「スケール=人を増やす」と思い込むのは誤解です。例えば、以下のような状況で「スケール」を語るのは本末転倒です。
- プロダクトの成長が停滞しているのに、PMを増やす
- まだ軌道に乗っていないのに、マルチプロダクト化を考える(ただし、後述する例外もある)
- 事業の基盤ができていないのに、基盤チームの立ち上げを検討する
- 事業が立ち上がってないのに、詳細な運用ドキュメントたくさん作る

このような状況では、組織を大きくすることが成果につながらず、むしろ動きが鈍くなったり、責任の所在があいまいになるリスクすらあります。
まず重要なのは、プロダクトの成長の兆しやPMF(プロダクト・マーケット・フィット)が見えるまで、責任をもってやり抜くことです。これは「まずは1人で成果を出せる状態をつくる」というよりも、「成果が見え始めるまで、『自分がやり切る責任を負う』という覚悟」が必要だということです。
そして、そのために求められる個人のケイパビリティが足りないと感じたなら、努力して成長するか、あるいは潔くその座を明け渡すことも時に必要になります。スケールの前にまず問われるのは、その覚悟と自走力なのです。
もちろん、例外もあります。例えば マルチプロダクト戦略が初期から明確に定義されているケースでは、複数PM体制や分業体制の早期構築が必要となることもあります。ただしそれも、戦略に基づいた必然性がある場合に限られます。
また、「1人では物理的に忙しい」という悩みはよく分かります。しかし、忙しさの正体が「PMでなければできない仕事」以外のタスクに追われているだけなら、話は別です。それはチームに分散したり、AIに任せたり、思い切ってやめてみることで、本当にやるべきことに集中できる余地が生まれます。何を「やるか」よりも、「やらないと決めること」のほうが、スケールでは重要になる場面もあるのです。