なぜ1人目PMは「特別」な存在なのか
イベント冒頭、蜂須賀氏は連載の第1回で掲げた「なぜ1人目PMが特別なのか」という問いから話を切り出した。同氏によれば、1人目PMには大きく2つのパターンが存在するという。一つはアーリーフェーズのスタートアップで事業とプロダクトをゼロから作り上げるケース、もう一つは老舗企業が初めてデジタルプロダクトを立ち上げるケースである。
今回の連載では主に前者に焦点を当てているが、その「特別」たる所以は、2人目以降のPMとは決定的に異なる役割にあると蜂須賀氏は強調する。
「1人目PMは、2人目以降のPMとは異なり、土台をすべて作っていかなければならないからです。すでにあるものを成長させる(グロースさせる)というより、0→1の仕事が圧倒的に多い。プロダクト開発はもちろんですが、開発組織がまだ立ち上がったばかり、あるいは存在しないこともあります」
既存のプロダクトや仕組みを改善・成長させるスキル以上に、何もない状態から事業とユーザー双方にとっての「価値」を創出する能力が求められる。これが1人目PMの本質的な役割であり、困難さの源泉でもあるのだ。
事業とユーザーが交差する「クロスポイント」を探せ
蜂須賀氏は、1人目PMが創出すべき「価値」について、事業とユーザー、双方の視点を持つことの重要性を説く。スタートアップでは、まず事業を存続させるために売上を優先するあまり、ユーザー体験を損なう実装、いわゆる「ダークパターン」に手を染めてしまうことがある。これは短期的な収益には繋がるかもしれないが、中長期的にはLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を毀損するリスクをはらむ。
一方で、ユーザーが望むものだけを追求し続ければ、マネタイズに失敗し事業として成り立たなくなる。このジレンマに対し、蜂須賀氏は一つの指針を示す。
「ユーザーが求める価値と事業としての価値が交差する点(クロスポイント)を大切にできればと思っています。プロダクトを企画し作る人ではなく、『プロダクトを通じて事業を作り、価値を創出する人』であることが、私の中では非常に重要だと考えています」
この言葉は、1人目PMが単なるプロダクト担当者ではなく、事業創造の当事者でなければならないことを明確に示している。
「PL/BS」は経営陣との共通言語である
では、「事業を作る」ためには具体的にどのようなスキルが必要なのか。蜂須賀氏は、一般的なPMのスキルセットを示す「プロダクトマネジメントトライアングル」に加え、1人目PMには特に、事業全体の成長を推進するビジネススキルが不可欠だと断言する。
その試金石となるのが、PL(損益計算書)やBS(貸借対照表)といった財務諸表を読めるかどうかだ。
「開発組織内では開発手法やユーザーに関する話が共通言語になりますが、経営層とプロダクト担当者が話す際の共通言語は『お金』です。これから実施しようとしている施策がどれだけの効果を持つのかを、できる限りお金に換算して示すことが重要です。それが、経営層や他チームと対話するための共通プロトコルとなります」
例えば、「ユーザーインタビューのために5万円の予算が欲しい」「技術的負債解消のために1年間の開発停止が必要だ」といった提案も、「その投資にどれほどの価値があるのか」をお金に換算して説明できなければ、経営陣の理解は得られない。
蜂須賀氏は「経理担当者向けの入門書を読むだけで十分」と述べ、まずは財務三表(PL・BSに加え、キャッシュフロー計算書)の概念を理解することが、事業視点を持つための入り口に立つことに繋がると実践的なアドバイスを送った。