はじめに──前回のおさらいと今回のテーマ
前の第1回では、「1人目プロダクトマネージャー(PM)」という存在の本質について掘り下げました。1人目PMとは、単にプロダクトを作る人ではありません。経営と視座を共有し、プロダクトを通じて事業そのものを創る人です。そのためには、テクノロジーの知識だけでなく、経営的視点、組織設計への関与、そして“共感”という力が求められることをお伝えしました。
- 第1回:「1人目プロダクトマネージャーとは何か?」
今回は、そうした1人目PMが実際に会社にジョインしてから「まず何をすべきか?」に焦点を当てていきます。戦略を描く前に、まず“自分自身”をどう立ち上げるか──これが今回のテーマです。
2.1 社長をトレースせよ
1人目PMとして入社したあなたの最初の仕事は「プロダクトを動かすこと」ではありません。それよりも先にやるべきこと──それは「社長の頭の中をトレースすること」です。
よくある失敗として、「前職での成功体験を再現させようとまずはテコ入れに動く」「過去の経緯やステークホルダーの関係性、経営として向かいたい方向性の理解が薄いまま、直感で変化を取り入れていく」という話を聞きます。焦ってしまうのも分かります。ただ、このような取り組みで信頼関係を築けるとあなたは思いますか?
プロダクトマネジメントには唯一の解があるわけではなく、最適解はその企業によって異なり、また市場の流れの中で刻一刻と変化していくものです。そのような状況下では、まず状況把握をすることが何よりも必要です。
その最たるものが社長との思考の同期です。社長が語るビジョンは、単なるキャッチコピーではありません。その言葉の裏には、過去の経験、痛み、怒り、希望といった深い動機が詰まっています。
例えば、「教育業界を変えたい」という社長がいたとします。その背景には、どんな原体験があったのか? なぜそれが“いま”重要なのか? プロダクトによってどう変えたいのか? こうした問いに対し、「言われたことを理解する」では不十分です。
“自分の言葉で語れる状態”になるまで、徹底的に社長の理念をインストールしましょう。これは単に同じ言葉で伝えれば良いということではなく、そこに情熱を乗せることができる状態が理想です。これは、単なる情報収集ではなく、“憑依”に近い作業です。
そのためには、
- 社長がどのように事業を語るのか、プレゼンや対話の場で観察する
- 社長がどんな価値観を大切にしているのかを理解し、共感する
- 会社の理念やビジョンを、1人目PM自身の言葉で説明できるようになる
と言ったアクションが効果的です。
Netflixの初期メンバーが「管理された不満足(managed dissatisfaction)」と表現し、映画ではなく、“待たなくていい自由”を届けるということに努めたと語り合ったように、PMは理念の代弁者でもあるのです。これが1人目PMのスタート地点に立つための行動です。