はじめに──誰のための連載か? そして何を得られるか?
この連載『1人目プロダクトマネージャーの教科書』は、以下のような方に向けて書かれています。
- スタートアップでこれからプロダクトマネージャー(以降、PM)に挑戦しようとしている人
- すでに1人目PMとして働いており、悩みや不安を抱えている人
- 将来的にプロダクトを軸にしたキャリアを築きたいと考える人
- そして、「PMってそもそも何をする仕事なの?」と疑問を持っている経営者や他職種の方
1人目PMの役割は、単に「何を作るか」を決める仕事ではありません。この連載を通じて読者の皆さんには、以下のような状態になってもらうことを目指します。
- 経営とシンクロし、事業の成長をプロダクトで実現する視座を持つ
- 開発やデザイン、営業、カスタマーサクセス(CS)など多様なチームと協働する術を身につける
- 抽象度の高い戦略と、現場に落とし込む実行力を両立する
- 将来、CPOや事業責任者へと進化する道筋を描ける
第1回では、「そもそも1人目PMとはどのような役割なのか?」を明確にし、その特殊性・本質について掘り下げていきます。
前提条件の補足と背景
本連載で取り上げる「1人目PM」とは、以下を想定しています。
- スタートアップで創業者からバトンを受け継ぎプロダクト領域における責任を持つ人
- PMというロールがいない既存企業において1人目の専任者となる人
いずれにしても創業者や社長の想いを受け継ぐ大事なポジションであることは間違いないでしょう。
申し遅れましたが、私は蜂須賀大貴(はちすか・ひろき)と申します。主にメディアのドメインを中心にプロダクトマネジメントに従事して10余年。直近では、ビジネス映像メディア「PIVOT」における1人目PMとして開発組織の立ち上げとプロダクトマネジメントの両輪で組織に貢献してきました。
その結果、2年で1名から20名の組織に。プロダクトもAppleのApp Storeのレビューで4.7の評価をいただくプロダクトへと成長しました。2025年4月に独立し、現在は、テクノロジーメディア「Newbee」の運営、並びにプロダクトマネジメントや開発組織構築のアドバイザーとして10社を超える企業さまのプロダクト開発を支援しています。
その過程の中で、よく遭遇する壁があることに気づきました。それは、「創業者や社長と1人目PMの目線が合っているようでズレている」ということです。そこには3つの要因があります。
- 十分なコミュニケーションが取れておらず、お互いの信頼が構築できていない
- 1人目PMが社長の期待する経営的な視座に届いていない
- 社長のプロダクトに対する期待値がない。1人目PMが説明しきれない
このような課題は一概に「コミュニケーションを取れば解決する」と片付けられるものではなく、お互いの知識や視座を高める努力を持ち寄って初めて足並みを揃えるための準備ができたと言えます。
本連載では、そんな1人目PMが企業や事業の成長の立役者として活躍するためのステップを解説していきます。
1.1 なぜ「1人目PM」は特別なのか?
スタートアップにおける「1人目PM」は、他のPMと決定的に異なります。なぜなら、そこにはまだ前例がなく、整備された仕組みも存在しないからです。
通常のPMは、既存のチームにジョインし、機能の改善やユーザー要望の整理、開発プロセスの最適化から始まり、プロダクトの方向性やプロダクト組織を強化し、ユーザーへの価値提供の最大化を担います。しかし1人目PMは、「そもそもこの会社はどこへ向かうのか?」「それにふさわしいプロダクトとは何か?」に加え、ユーザーの求める価値と事業としての成長のクロスポイントをゼロから考える必要があります。

言い換えれば、1人目PMは「プロダクトを企画する人/作る人」ではなく、「プロダクトを通じて事業を創る人/価値を創出する人」であるということです。
そう考えると自ずと経営的な視座、視点が必要であることは言うまでもないでしょう。
PMが経営の目線を持つべきという視点は、Andreessen Horowitzのパートナー、ベン・ホロウィッツ氏も「PMはミニCEOである(Product Manager is the mini-CEO)」と述べています。特にスタートアップでは、PMが意思決定の遅延や視座の断絶を防ぐ役割を担うからこそ、CEOと同じ目線に立つことが求められるのです。