はじめに
前回 、シニアプロダクトマネージャー(以下、シニアPM)とミドルプロダクトマネージャー(以下、ミドルPM)の間には「キャズム」があり、その差はスキルの量ではなく、引き受けている問いの質にあるのではないか、と書きました。
そして最後に、シニアPMに求められる2つの視点として、「組織を理解し、動かす」「事業計画を理解し、戦略を立てる」を挙げました。
今回は後者に関わる、シニアPMにとって「事業計画を読む」が何を意味するのか、を掘り下げていきます。
ここでお話しする「事業計画」とは、単なる定性的なビジョンではなく、売上・利益目標や人員計画などが組み込まれた「数値計画」のことを指します。
「プロダクトマネージャには事業視点が必要だ」「事業計画を理解すべきだ」。これはもう、さまざまな場所で言われていることだと思います。私もそう思います。
ただ、いろいろなプロダクトマネージャと話していて感じるのは、プロダクト戦略やユーザー視点の話はできるのに、「そのプロダクト戦略は事業計画とどう連動しているのか」を語れる人が意外と少ない、ということです。
プロダクトをどう成長させるかは語れる。しかし、なぜその方向なのかを事業計画の構造から説明できるかというと、そこがつながっていないことが多い。プロダクト戦略と事業計画の間に、断絶があるように感じています。
そして、この接続ができるかどうかが、私の中ではミドルとシニアの差として一番大きいのではないかと感じています。
プロダクトマネジメントの連載で、事業計画をここまでがっつり扱うのか、と思われるかもしれません。ただ、さまざまなプロダクトマネージャと話してきた中で、ミドルとシニアの差が最も如実に表れるのがここだという実感があります。だから今回は、あえてこのテーマに正面から踏み込んでみたいと思います。
事業計画を読む前提:「事業としての自社」を語れるか
事業計画を読むと言っても、その前に押さえておかなければならないことがいくつかあるように思います。「事業としての自社」をどのくらい理解し、自分の言葉で語れるか。まずはここが問われるのではないでしょうか。
具体的には、次のような問いです。
- 自社は誰に、何を提供し、どのように利益を上げているのか
- お金を払う顧客と、日常的にプロダクトを使うユーザーはどういう関係にあるのか:一致しているのか、分離しているのか。分離しているなら、それぞれの意思決定や評価軸はどう異なるのか
- 事業のグロースサイクル(フライウィール)はどう回っているのか:フライウィールとは、ビジネスが伸びる循環構造のことです。どこにレバレッジがかかっていて、何が回ると全体が加速するのか
- 自社はどのくらいのスピードで、どのくらいの成長を期待されているのか:スタートアップであれば投資家からの急速な成長への期待があり、上場企業であればIRで掲げた市場との約束である成長レートがあって、その基準感は各社で異なります。さらに、今見ている指標がトップライン(売上)なのか、利益なのかによっても、プロダクトとしてやるべきことは大きく変わってくるはずです
これらが自分の言葉で語れないと、事業計画の数字を見ても、その裏にある構造を読み解くのは難しいのではないかと考えています。
私自身も、以前はプロダクトをどう良くするかの話はできても、こうした問いに対して自分の言葉で答えられているかというと、正直あやしい時期がありました。プロダクトの成長と事業の成長を、なんとなく同じものとして捉えてしまっていたように思います。
なお、ここではB2B SaaSを前提に書いていますが、本質的にはtoCでも同じだと考えています。誰から収益を得ていて、誰がプロダクトを使い、何が事業を回しているのか。この構造を自分の言葉で語れるかどうかが問われる点は変わらないはずです。
事業計画を「読む」とはどういうことか
前提を踏まえた上で、事業計画を「読む」とは具体的にどういうことか。私は、ここには3つのレベルがあるのではないかと考えています。
レベル1:数字を見る
まず、事業計画をただの数字として「見ている」状態について。
「今期の売上目標はxx億円。高い目標なので、プロダクトとしても頑張っていきましょう」
これは事業計画に向き合っていないよりはずっといいと思います。ただ、この状態では事業計画が自分の意思決定の基準や判断に活きていないのではないでしょうか。
振り返ると、私自身にもこういう時期があったように思います。事業計画の数字はプロダクト戦略の冒頭に置いている。けれど、そこから先の中身は、自分が見えている課題やユーザーの声をもとに組み立てている。事業計画が戦略の「前書き」にはなっていても、中身と構造的につながっていなかった。
なぜこの優先順位なのか、なぜ今この領域に張るのかを、事業計画の言葉で説明できない。これがレベル1の状態です。
レベル2:数字の構造を分解し、「賭け方」を読む
ここからは、前提として挙げた自社のビジネスモデルやグロースサイクルの理解が効いてきます。
例えばの話をします。事業計画がYoYでn倍の成長を描いているとします。その数字を見て「高い目標だ」で終わるのではなく、自社のグロースサイクルに照らして構造を分解していきます。
- 売上がn倍ということは、手前の指標である商談数はどうなっている必要があるのか
- 例えば商談数が3倍必要だとして、一方でセールスの人員計画は2倍
- 同じプロダクトで、同じ競争環境を前提にしているなら、そのままでは達成は厳しいように見える
ここでギャップが見えてきます。そして重要なのは、そのギャップがどういう前提で埋められる想定になっているのかを読むことだと思っています。
セールス組織の中で受注率を上げていく想定なのか。それともプロダクト側で何かを変えることで、そこを伸ばしていく期待が織り込まれているのか。事業計画の数字の裏にある「賭け方」を読み取る。これがレベル2です。
ただ、分解できること自体が重要なのではないと思っています。大事なのは、分解した結果見えたギャップに対して、「この前提はどう考えていますか」と問いを立てにいけるかどうかではないでしょうか。
私自身を振り返ると、以前は事業計画を「自分の仕事の外にあるもの」として捉えていたように思います。経営やセールスが決めたもので、自分の仕事はその中でプロダクトをどう良くするか。しかし、事業計画の前提そのものに対して問いを持てるようになったとき、見える景色が変わった感覚がありました。
これは機能をどう作るかという視座とは、明らかに異なる目線です。プロダクトの中から外を見るのではなく、事業の側からプロダクトを見る。この視座の転換が、ミドルとシニアの間にあるキャズムの正体の一つなのではないかと思っています。
もちろん、ここで挙げた分解の仕方はあくまで一例です。何をどう分解するかは、自社のビジネスモデルや収益構造によって異なります。だからこそ、事業計画を読む前に、自社の事業がどう回っているかを理解しておくことが前提になります。
レベル3:プロダクトの打ち手と接続する
そしてレベル3は、その読みをプロダクトの打ち手と接続することです。
レベル2でギャップと賭け方が見えたとして、それだけでは「読めた」で終わってしまうように思います。
例えば、事業計画にプロダクト側への期待が織り込まれていることに気づいたとします。ここからプロダクトマネージャがやるべきは、まず計画を立てている主体者(例えばセールスの責任者)と意図をすり合わせることではないでしょうか。
受注率を上げていくシナリオをどう考えているのか。例えばプライシングの変更は視野に入っているのか。その時点で解像度がぴったり合っているとは限りません。それでも、意図を理解した上で、自分がイメージしているロードマップとどこに差があるのか、変えていくべきなのかを考える。
ここまでいって初めて、「プロダクトマネージャとして事業計画を読めている」と言えるのではないかと考えています。
