曽根原 春樹(そねはら・はるき)

LinkedIn Senior Product Manager
シリコンバレーに在住19年目となり、BigTech・スタートアップ企業およびBtoB・BtoC双方の領域で、グローバル市場向けに行ってきたプロダクトマネジメントの豊富な経験と実績を持つ。現在は米Microsoft社傘下のLinkedIn米国本社にてシニアプロダクトマネージャー。Udemyにおいてプロダクトマネジメント講座を10講座展開し、3万人以上の受講者を抱える。顧問として日本の大企業やスタートアップ企業のプロダクトづくりをサポート。著書に「生成AI時代のプロダクトマネジメント(翻訳)」の他に「プロダクトマネジメントのすべて(共著)」、「ラディカル・プロダクト・シンキング(監訳)」(全て翔泳社)がある。
意思決定の質がプロダクトのインパクトにつながる
曽根原氏は、シリコンバレーで19年以上のキャリアを持ち、大手企業からスタートアップ、BtoBもBtoCも経験するなど、幅広い領域で活躍してきた。現在は、米Microsoft社傘下のLinkedIn米国本社でシニアプロダクトマネージャーを務めながら、自身のオンライン講座やコンサルティング活動を通じてプロダクトマネジメントの知見を共有している。今回のpmconfへの登壇は6回目となる。
まず曽根原氏は、短期間で失敗したユニコーン企業の具体例を挙げ、それらの失敗が多くの場合、初期の意思決定の誤りに起因していると指摘した。特に当初の計画と実際の進捗や成果を比較する「予実管理」の難しさに触れ、急速に変化する現代において、適切な意思決定の重要性を強調した。計画通りに進むことはまれであり、外部要因によって前提条件やKPIが揺らぐ中で判断を誤れば、成果が大きく損なわれる可能性がある。こうした状況は優秀なCEOや人材を擁するユニコーン企業であっても例外ではない。
そして曽根原氏は「プロダクトのインパクトは、自分たちの意思決定レベル以上に上振れすることはありません」と強調した。インフルエンサーが支援してヒットするといった追い風が吹くこともあるが、それは偶然の産物で計画的に狙えるものではない。戦略を作る際に行った意思決定のレベルが、その後に反映されることになる。つまり、意思決定の質が成果を左右するというのだ。

ある問題だけにとらわれてしまう、「固着バイアス」の弊害
曽根原氏は、間違った意思決定にはバイアス(偏見・不公平な判断)があるとして、その代表例4つと、その対処法の紹介に移った。1つ目のバイアスは「間違ったこだわり」として、BtoBのプロダクトマネージャーが、営業活動を支援する新機能をリリースしたケースを取り上げた。
この機能はユーザーの営業効率を大幅に改善するとされ、リリース前から好意的な反応を得ていた。しかし、実際にリリースすると期待した成果には届かず、データ分析の結果、ユーザーが求める機能が不足していたことが明らかになった。プロダクトマネージャーは不足部分を補うための機能追加を提案し、開発が進められたが、依然として成果は上がらなかった。さらに、マーケティング面での強化がされたもののうまくいかず、最終的にはプロジェクトが終了に追い込まれた。
曽根原氏は、このケースでは初期の意思決定に問題があったと指摘した。ユーザーヒアリングの結果、「営業活動を支援する機能をリリースすれば、1件あたりの営業時間を大幅に削減できる」と判断され、その方向性に固執したまま開発や施策が進められた。しかし、これだけに集中しすぎたことで、結果として期待したインパクトを生み出せなかった。
「問題が本当に解決する価値があるかどうかを見極める必要があります。もちろん、ユーザーリサーチなどは非常に重要です。ただし、1つの問題に固執しすぎると、他の課題と比較する視野が狭まります。ある問題が最も重要だと過信することを『固着バイアス』と呼びます」(曽根原氏)
曽根原氏は、「導入方法を簡素化すればユーザーが社内展開の優先度を上げてくれるのではないか」「インセンティブを加えればユーザーが使って価値を理解してくれるはずだ」といった声が社内で聞こえる場合、固着バイアスに注意するべきだと指摘する。これらのケースでは、そもそも解決すべき問題自体が十分なインパクトを持っていない可能性が高い。
曽根原氏は、固着バイアスを避けるためには、問題解決のインパクトを正確に見極める「インパクトサイジング」が重要であると強調。同じテーマでも問題の定義方法を変えることで得られる成果が大きく変わることがあり、これを試行錯誤するスキルがプロダクトマネージャーに求められると述べた。
