異なる文化と強みを融合させ、パーソナルケアサービス「インナーガーデン」を開発
それでは実際に、大企業(明治)の「内なる外」であるベンチャー(Wellnize)が新サービスを生み出す、「共生型新規事業開発」とはどのようなものなのか。
その形態で誕生した新規事業の一つとして、木下氏は、腸内環境を整えるためのパーソナルケアサービス「インナーガーデン」を紹介した。自宅でできる腸内フローラ検査キットで腸内細菌5種類のバランスを分析し、その検査結果に基づき、腸内タイプでパーソナライズされた栄養素(オリゴ糖など)を含むココア飲料が定期的に配送されるというものだ。

このサービスの特徴は大きく2つあり、1つめは「プレバイオティクス」と呼ばれる腸内細菌の栄養源を摂取すること。腸内にすでに存在する菌を元気にするのが目的となる。しかし、腸内細菌の種類は多々あり、それぞれが必要とする栄養素も異なる。そこで、2つめの特徴として、個々の腸内環境を検査して菌の種類などを分析し、それに適した栄養を届けるという「インナーガーデン」の構想が生まれた。
この「インナーガーデン」事業におけるプロダクトマネジメントは非常に難易度が高いものだった。プロダクトマネージャーには、まず腸内細菌などの科学的知見や商品開発などの「ドメイン知識」が求められ、検査して定期購入に至るためのB2Cの「事業開発」の知見、実際に商品を作って届ける「サプライチェーン」の知識、当然ながら「マーケティング」や「ソフトウェア開発」の知識も必要になる。
木下氏は、「あらゆる領域を横断し、全体の最適なバランスを考えながら意思決定する必要がある。さらに難しくしているのは、明治とWellnizeがそれぞれまったく専門性が異なっていたことだ」と語る。腸内細菌や商品製造のサプライチェーンは明治が詳しいものの、D2C(メーカー直販モデル)やデジタルマーケティングなどの知見はWellnizeのほうが豊富。さらにソフトウェア開発は、Wellnizeにエンジニア組織が存在し専門性があるものの、製造やロジスティックとの連携となると経験が少ない。両者とも得意・不得意があり、適切な連携が必要だった。

木下氏は「必要なケイパビリティが広範であるにも関わらず、異なる会社を調整するのは難易度が高かった。正直いって解決不可能な課題だと思った」と振り返り、「しかし、簡単にまねできないからこそ、それを乗り越えた先には競争優位のポジションが築かれると考え、懸命に乗り越えた」と語る。
その結果、2024年12月に「インナーガーデン」がローンチし、売り上げも順調に伸長。テレビなどでも取り上げられ、注目されるようになってきたと言う。