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プロダクトとUXのあいだで ──デザインと思考の話

Sora2は「動画生成ツール」では語りきれない──OpenAIが描く、AIプロダクトの設計思想

プロダクトとUXのあいだで ──デザインと思考の話 第2回

 OpenAIの動画生成AI「Sora(Sora v2 model)」が公開され、その生成クオリティに世界中が驚嘆しました。しかし、UI/UXデザイナーの視点で見ると、真に注目すべきはその「SNSのようなインターフェース」に隠された設計思想だといいます。 デジタルプロダクション「factory4」の新谷氏は、SoraのUIが従来の「入力して出力」というツール的な文法をあえて捨て、「関係性の構築」や「学習コストの外部化」を選択していると分析します。 単なる機能競争を超え、AIプロダクトが社会にどう受け入れられるかを探るOpenAIの戦略を、UI/UXの視点から紐解きます。(編集部)

はじめに

 こんにちは。Cosmowayが組織するデジタルプロダクション「factory4」のUI/UXデザイナー、新谷です。

 前回は、AI時代のプロダクトに必要な「UXファースト思考」について、体験設計の視点から整理しました。今回はその続編として、1つの具体的なプロダクトを通して、その思想がどのように「形」として現れているのかを見ていきたいと思います。

 題材は、OpenAIが発表した動画生成AI「Sora2」です。

 とはいえ、この記事では「どんな動画が作れるのか」「生成品質はどこまで来ているのか」といったレビュー的な話は主題にしません。なぜなら、Sora2の本質は動画生成の精度や機能の進化だけではなく、プロダクトとしての設計判断そのものにあると感じているからです。

 ここ数年、生成AIの進化はあまりにも速く、「何ができるか」はすぐに陳腐化します。一方で、「どんな体験としてユーザーの前に立ち上がるか」「どんな関係性を前提に設計されているか」は、プロダクトの寿命そのものを左右すると思います。

 Sora2を見ていて印象的なのは、OpenAIがこのフェーズにおいて、技術の先端を誇示することよりも、プロダクトとしての「居場所の作り方」に明確に舵を切っている点です。

Sora2を触って最初に感じる、あの違和感

 Sora2に初めて触れたとき、多くの人が似た感覚を覚えたのではないでしょうか。

  • 思ったより「動画を作る」感じがしない
  • 生成画面よりも、他のユーザーの生成結果が目に入る
  • 触っている時間の多くが閲覧に使われる
  • SNSを眺めているような空気感がある
Sora2のSNSライクなインターフェース(参考:Sora;snoopdogg)
Sora2のSNSライクなインターフェース(参考:Sora;snoopdogg

 従来の生成AIプロダクトは、「入力→出力→完成」という一本道の体験設計がほとんどでした。ところがSora2は、その文法から明らかに外れています。

 この違和感は「使いにくさ」ではありません。むしろ、従来の生成AIに慣れたユーザーほど強く感じる、体験文法のズレです。

 これまでの生成AIが「入力する→結果を得る→評価する」という作業のリズムで設計されてきたのに対し、Sora2は「眺める→文脈を理解する→関わる→試してみる」という、まったく異なるリズムを持っています。UI/UXデザイナーの視点で見ると、この違和感は偶然ではありません。OpenAIが「ユーザーとの関係性」を再定義した結果として、意図的に作られた違和感だと読み取れます。

なぜSora2は動画生成UIを前面に出さなかったのか

 ここで重要なのは、Sora2が「動画生成をやめた」わけではないという点です。実際には次のような、かなり高度な機能を内部に持っています。

  • テキストからの動画生成
  • シーンや動き、カメラワークを含んだ生成
  • 連続した映像の生成や編集的な操作
  • キャラクターを使った一貫性のある生成
シーンの指定のUI画面(高度な機能を持つストーリーボード画面)
シーンの指定のUI画面(高度な機能を持つストーリーボード画面)

 しかし、それらはUIの主役としては扱われていません。この判断は、単なるUIデザインの趣味ではなく、プロダクト戦略そのものだと考えるべきです。

 もしOpenAIが「Sora2=動画制作ツール」として市場を取りに行くのであれば、

  • 動画生成に特化したUI
  • 操作ステップを最短化する
  • 成果物を即ダウンロードできる導線を強化する

といった設計も十分にあり得たはずです。しかしSora2は、そうしなかった。これはUIの問題というよりも、「どの土俵で戦うか」をプロダクトの入口で決めた判断だと言えます。

Sora2が捨てたもの、選んだもの

 UI/UXの視点で整理すると、Sora2は意図的に次のような取捨選択をしています。

あえて捨てたもの

  • 「すぐ成果が出る」達成感
  • 効率やスピードを前面に出した生成体験
  • 明確なツール感・作業感

代わりに選んだもの

  • 他者の生成を見る時間
  • 試行錯誤や未完成さを含むプロセス
  • 文脈に触れ、学習する体験
  • 場としての居心地

 ここで重要なのは、「何を足したか」よりも「何を我慢したか」です。Sora2は、分かりやすい成功体験や短期的な感動を、あえて抑えています。その代わりに設計されているのは、少しずつ関係が育っていく体験です。これは、短距離走ではなく、明らかに中長距離走のプロダクトです。Sora2は、単に「動画を作るための道具」ではなく、生成文化に参加する場として設計されている。そう捉えると、UI/UXの判断が一本の線でつながって見えてきます。

OpenAIが本当に見ているKPIはどこか

 ここからは、少しプロダクトマネージャーや事業責任者の視点で考えてみます。Sora2のUI/UXから透けて見えるのは、KPI設計そのものが、従来の生成AIと大きく異なっているという点です。

 一般的な動画生成AIで想定されがちなKPIは、

  • 生成回数
  • 成功率
  • 処理速度
  • 出力品質

でしょう。

 一方、Sora2の設計からは、むしろ次のような指標が想定されているように見えます。

  • 滞在時間
  • 再訪率
  • 他者コンテンツの閲覧量
  • 文脈理解の深さ
  • 参加への心理的ハードルの低さ

 つまり、「毎日動画を作る人」を増やすよりも、「毎日触れ、関係を持つ人」を増やすことに重心を置いている。ここで一度、プロダクトマネージャーとして自分のプロダクトを振り返ってみてください。ユーザーは「何回使ったか」で評価されていますか? それとも「どれだけ関係が続いたか」で評価されていますか? Sora2は明確に後者を選んでいます。これは、生成AIが一度の成果よりも継続的な関係性に価値を持つ存在へと移行したことを示しています。

次のページ
AIの「凄さ」を、あえて抑えるというUX判断

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この記事の著者

新谷友樹(株式会社Cosmoway/factory4)(シンタニ トモキ)

大手広告デザイン会社を経て、デジタルプロダクション「factory4」に所属。モバイルアプリやWeb、IoTシステム開発を中心に、UI/UXデザインやアートディレクション、デザインコンサルティングを担当する。映像制作や動画コンテンツ制作、写真、イラストレーション、デザイン講師など活動領域は多岐にわた...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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