不確実な市場を勝ち抜くための「3つの視点」
どんなプロダクトが売れるか予想できない、機能ベースに陥る優先順位の議論、リソースを投下してから「違った」と気づくプロダクト開発──。こうした課題を「作る前」のプロセスで解消しようとする実践が、本セッションの主題だ。
議論の柱となったのは、大きく3つのテーマである。1つ目は、正解のない市場で「開発の目的」と「ターゲット」を見極めるためのプロダクトディスカバリーの戦略的枠組み。2つ目は、機能(Output)ではなく課題(Problem)を起点とする優先順位付けの思考法。そして3つ目は、生成AIやコーディングエージェントが台頭する時代における、プロダクトマネージャーの新たな役割である。急成長SaaS企業がいかにして不確実性を乗り越えているのか、その実践知を紹介していこう。
グローバルで戦うSaaSプラットフォーム企業の現在地
Josysは、ITガバナンスとSaaS管理領域のB2Bプラットフォームとして2021年にサービスをローンチした。現在は700社以上の顧客を抱え、グローバルで350名以上のメンバーが事業を支える急成長企業だ。
プロダクト開発は、米国サンフランシスコ・シリコンバレーとインドのバンガロールを中心としたグローバル体制で推進されている。プロダクトマネージャーの役割を担うメンバーは世界に5名おり、日本拠点のプロダクトチームは小俣氏一人だという。上司であるCPOはサンフランシスコを拠点とし、他のメンバーはインドに在籍している。
「各リージョンのビジネス担当者やCS(カスタマーサクセス)メンバーと連携して情報を収集し、ディスカバリーを経てプロダクト開発につなげていく。それが私たちプロダクトチームの役割です」と小俣氏は語る。
同社が展開するのは「SaaS管理プラットフォーム(SMP)」と呼ばれるカテゴリーだ。企業のSaaSやITリソースを一元管理し、ITオペレーション全体の効率化とITガバナンスの強化を支援するもので、Josysは2024年・2025年と2年連続でGartner Magic Quadrantに日本で初めて選出されている。
国内ではIT部門が主要顧客だが、海外ではMSP(Managed Service Provider)が中心となり、近年はオーストラリアや東南アジア、欧州へと市場が拡大している。SMPというカテゴリー認知自体が形成段階にある中、多様な地域・規模・ペルソナを相手に「何を作り、誰に届けるか」を判断し続けることこそが、小俣氏の仕事の核心にある。
小俣氏は、「市場の成長やカテゴリーの変化が激しい環境下、グローバルレベルで競争できるのがこの仕事の醍醐味」だと明かす。正解が見えない市場において、いかに確度の高い意思決定を積み重ねていくか。この問いに対する解が、独自のディスカバリー手法にある。
モデレーターを務めた渡辺氏は、アトラシアンでプロダクトマーケティングを担当するエグゼクティブプロダクトマーケティングストラテジストだ。日本IBMやVMwareを経て現職に至り、ProductZineへの寄稿も行っている。
小俣氏とは、Pivotal Software(2019年にVMwareに買収され、現在はBroadcomの一部)時代の同僚という縁がある。今回の共同登壇もそのつながりから実現した。同社のアジャイル開発コンサルティング部門であった「Pivotal Labs」は、ディスカバリーとフレーミングによって課題を定義・絞り込み、その上で反復開発へ移行するプロセスを実践してきたことで知られる。両氏は、この共通言語を背景に議論を展開した。
ディスカバリーの「どこで」を問う。戦略との整合が先決
そもそも「プロダクトディスカバリー」とは何か。小俣氏はこれを、リスクヘッジとしての活動であると定義する。
「ものづくりにおける大きな意思決定に対し、多大な技術的・人的リソースを投下する前にどれだけ自信を持てるか。アイデアの発見にとどまらず、『解く価値があるか』の検証まで含む活動だと言えます」
しかし、漫然と取り組むだけでは効果は薄い。そこで小俣氏は、ジョーシス独自の枠組みとして2つの軸を紹介した。
第1の軸は「開発の目的」だ。SMPのようにカテゴリーを形成しながら成長している段階では、顧客が正解を見つけられていないケースが多い。技術的な未来やプロダクトビジョンから駆動して作るもの(カテゴリービルダー)と、既存顧客のフィードバックを起点に改善・拡張するもの(Go-To-Market起点)とでは、ディスカバリーの性質が根本的に異なるため、同じ枠組みでは語れないのだ。
第2の軸は「誰に作るか」である。ペルソナとして「IT部門」と「MSP」、セグメントとして「SMB」と「エンタープライズ」を区分する。これら4つの象限のどこを対象にディスカバリーを行うのか、活動の設計図として先に定めておく必要がある。
重要なのは、この優先度をプロダクトチームだけで決めないことだ。渡辺氏が「CEOなど経営層も交えて優先度を判断すべき」と整理すると、小俣氏もこれに同意し、「全社的なビジネス戦略と整合した形で優先度を決めていくべき」と応じた。特定のターゲットに絞り込むというよりは、GTM担当者や経営層との対話を通じて、優先度を継続的に定めていくのが小俣氏のスタンスだ。
Josysでは代表の松本恭攝氏も議論に積極的に関与するという。「松本が活発に議論に入ってくれるおかげで、幅広いインプットのもと重要な方向性を定めやすい」と小俣氏は語る。もっとも、社長の「鶴の一声」で決まるわけではない。ステークホルダーとの対話と判断軸の両立、その設計こそがJosys流のディスカバリーを支えている。
これに対し渡辺氏は、アトラシアンの事例を引き合いに出した。プロジェクト管理ツールの「Jira」は誕生から20年を超えたプロダクトだが、今なお新たなニーズへの対応が求められている。新サービスを生み出す軸と、既存サービスを改善する軸、さらにSMBか大企業かという軸。アトラシアン自身もビジネスゴールからプロダクト戦略を立てた上でディスカバリーを行い、デリバリーへとつなげているという。

