新しい市場を開拓し、プラットフォームビジネスとしてのあり方を模索
事業化にあたっては、まず「なぜこの課題が解決されてこなかったのか」という原因を探った。先行事業者に対するデスクトップリサーチからは、「セキュリティ評価」という業界カテゴリが確認できず、前例も見当たらなかった。通常ならここで撤退するケースも多いだろう。しかし、課題を抱えている企業へのヒアリングからは、実際に困っている人が多く、中には海外製品を導入しているケースもあり、解決策が期待されていることが伺えた。
そもそも2020年頃はDX推進の広がりもあり、個人情報保護の規制に伴って、セキュリティ強化に力を入れる企業が増えていた。海外には、すでにそうしたニーズに応えて売り上げを伸ばすプレイヤーがいることも調査によって分かった。

市場が見えてきたところで、続いてビジネスモデルの現実性について検討した。とりわけソリューションの最たるカギとなる「チェックシートのフォーマットの統一」について仮説を検証するべく、「MVP(Minimum Viable Product)」で「Assuredが設計したエクセルのチェックシート」を用いた。これをいくつかの企業に用いてみた結果、国際的なセキュリティガイドラインにのっとり、一定の網羅性があれば、多くの企業のチェックシートをカバーできることが分かった。
鈴木氏は「仮説に対してミニマムな形で検証できたのは良かった。さらに何社かの企業からPoCという形で協力を得て、Assuredの介在で調査業務が回るのかも検証できた。第三者調査の信頼性や、事前に情報を整理する必要性など、オペレーションの“引っかかりどころ”を確認できたことも大きな収穫だった」と振り返る。
またプラットフォームサービスとして、評価データが集まっていないと価値提供ができないという“たまごとにわとり”問題が懸念されたが、あえてデータだけを集めるよりも、従来業務で企業からの依頼によってデータを集める方法が最もスムーズだということが分かってきた。

そして最後に検討したのが、「実際に利益が上がるのか」ということだ。当初は「工数削減」をメリットとして訴求していたが、人件費との兼ね合いでサービス単価を上げることが難しいことが判明。ただし、「専門家の第三者評価に価値がある」とするユーザーのフィードバックから、事業的価値を改めて感じることができた。そこで、「クラウドサービスのセキュリティ評価業務の高度化」を訴求するようにしたところ、提供価値に見合った対価が見込めるようになったと言う。
「値付けは、立ち上げ期に低く設定してしまいがちだが、その後上げることは難しい。適正な価格となるよう、何度も調整したことは結果的に良かった」と鈴木氏は語る。
さらに鈴木氏は、新規事業における市場の選定基準について、参考として「Visionalにおける事業創出フレームワーク」を紹介。それによると、「社会構造の変化によって市場の成長が期待されること」「DXのニーズが顕著」「市場のポテンシャルが大きい」などが市場選定基準に該当する。鈴木氏は「当時はあまり意識していなかったが、そうした成長を見越した市場選定ができていたのではないか」と評した。

鈴木氏は、改めて「市場の見つけ方について、まずは強いユーザーニーズをヒアリングによって確かめることが重要。そして、現在の市場を見るというより、社会の波に乗って将来的な市場がどのように形成されるのかを想像しながら、事業を始めることが大切だ」と強調する。その一方で、事業として売り上げにつなげるには、「いまどのくらいお金をかけているのか」を確認し、それと代替するものについて工数削減以上の価値提供ができているかを確認しながら進めることが重要とした。

そして、「新しい市場を開拓することは、競争が少ない環境でビジネスを展開できるという大きなメリットがある。市場における競合が少ない段階で参入することで、独自のポジションを確立しやすくなり、企業としての成長の可能性を広げられる。さらに、こうした市場創造の過程で得られる先行者利益は、企業にとって重要な要素となる」と分析した。