はじめに──「センス」をデータで磨く時代へ
前回の記事(第1回)では、大規模言語モデル(LLM)や生成AIをプロダクト戦略に取り込む際に、以下の3つの壁をどう乗り越えるかを論じました。
- 技術アップデート速度
- 独自データ・ドメイン選定
- 深い業務プロセス理解
特に、広告クリエイティブやコピーライティングのように「独自データ」「高度なドメイン知識」が活かせる領域では、プラットフォーマーとの単純なデータ量勝負に持ち込むのではなく、いかに「自社固有の資産」を活かし、AIとの分業体制を整えるかが大きな鍵になります。
本記事では、クリエイティブ領域、とりわけ広告コピー制作やバナー・レイアウト分析などで実際に活用している「ファインチューニングAI」「リファレンスAI」の事例を紹介しながら、いかに「センス」をデータに落とし込み、勝ちパターン(売れるクリエイティブ)を量産できる状態をつくるかを探っていきます。
1.「センス」を学習するAIとは?──職人的なクリエイティブセンスをデータで整理し、使いこなす時代へ
広告コピーやデザインアイデアなど、従来は経験豊富な職人気質のクリエイターしか見抜けなかった「ウケる/ウケない」「似ている/似ていない」といった感覚を、今やAIが大量のデータを通じて解析し始めています。
重要なのは、AIが人間の発想を「すべて置き換える」のではないという点です。職人的なセンスやブランド独自の世界観がAIにとっても「軸」として機能するよう、知見のある人間がデータを整理し、意思決定を行うことでAIモデルを育てていきます。結果的に、クリエイター個人の暗黙知に頼るのではなく、組織全体でクリエイティブ最適化を回せる体制が構築されるのです。
2.ファインチューニングAIによるコピー学習
ファインチューニングとは、GPTなどの汎用生成AIモデルに、自社ブランドや専門領域に特化した追加データを与え、パラメーターを微調整して「独特の言い回し」や「レギュレーション・世界観」を踏まえたアウトプットを生成させるアプローチです。
高成果だったコピーの事例を集め、モデルに微調整(ファインチューニング)を行うことで、効果の高い言い回しや「ブランドらしさ」を保ちながら、短いフレーズやキャッチコピーを自動生成できるようになります。
ファインチューニングの工程

(1)データ収集:「らしさ」を再現する素材づくり
まず、過去の広告コピーを大量に集めます。CTRやCVRといった数値的な成果が良いものを優先しつつも、「ブランドとしてこの言葉遣いは外せない」という観点をディレクターやコピーライターが厳選します。
(2)データ拡張:コピーの「幅」を増やす
ファインチューニングに足る十分なボリュームの表現パターンをAIに学習させるため、社内で開発した生成AIツールなどを使って、オリジナルに近いニュアンスのコピーをさらに量産します。そこからノイズを排除し、最終的に数百~千程度の訓練データをまとめることが多いです。
(3)モデル微調整:パラメーターの反復最適化
学習率やエポック数(訓練回数)を変えながら複数モデルをテストし、実際に出力されたコピーを人間が評価します。「もっと〇〇を強調したい」といった要求に合わせて再度調整を行い、反復しながら「らしさ」を引き出していきます。
(4)社内外での検証:本番運用への橋渡し
完成モデルが出力したコピーをクリエイティブディレクターが最終チェックし、実際にSNSなどでA/Bテストを実施します。その結果フィードバックを再度モデル調整に組み込み、コピーのクオリティをさらに高めます。
実例
コピー例:下記は、同じ商品について「広告コピーを書いてください」という一言のプロンプトのみで出力した、2つのファインチューニング済みライターによるコピー例です。
【痛みが少ない全身脱毛】
ダイレクトコピーライターの例(効果の高いダイレクトコピーを学習したモデルが出力したサンプル)


ブランドコピーライターの例(特定ブランドのレギュレーションを学習し、世界観を反映して出力したサンプル)

