はじめに──AIで「勝ち筋」をどう設計するか
近年、生成AIや大規模言語モデル(LLM)の進歩によって、私たちのプロダクト開発のあり方は大きく変わろうとしています。例えば、弊社(株式会社リチカ)が手掛ける広告やマーケティングの領域においても、コピーやクリエイティブの自動生成が注目を集めていますが、プロダクトマネージャーの皆さまにとっても「生成AIを製品やサービスにどう組み込み、差別化するか」が喫緊の課題になっているのではないでしょうか。
しかし一方で、AI領域は技術更新のスピードが速く、いま目の前にある成果やノウハウがあっという間に陳腐化するリスクも抱えています。また、MetaやGoogle、OpenAIなどの巨大プラットフォーマーが莫大な資本を投じてAI基盤を整備するなか、後発の事業会社やスタートアップが同じ土俵で戦うことはきわめて厳しい局面があるのも事実です。
そこで鍵となるのは、「独自ドメインへの深い理解」や「自社が保有する独自データ」、さらにはそれらを巧みに融合し、AIと人間それぞれの強みを活かしたプロダクト設計です。「プラットフォーマーが踏み込みにくく、かつ高度な専門性や連携体制が求められる領域」で勝ち筋を見いだすことが、AI時代のプロダクトマネジメントには欠かせません。
本記事の執筆を担当した株式会社リチカは、広告クリエイティブ領域において生成AIを積極的に活用している企業です。40万件を超える広告配信データをベースに、効果予測AIや独自のコピーライティングAIなど、AIを活用したプロダクト開発と運用に取り組んでいます。著者であるCPOの今井は、これらのプロジェクトの中心に立ち、AI技術と広告戦略の融合を推進。独自の知見を活かした差別化されたプロダクトの設計・展開を主導しています。本稿ではその豊富な経験に基づき、AIを組み込んだプロダクト設計における具体的なポイントを解説します。
1.生成AIプロダクトが直面する3つの壁
生成AIプロダクトを検討・開発するうえで多くの企業が直面しがちな「3つの壁」についてご説明します。
1-1.技術のアップデート速度
生成AIや大規模言語モデルは日々進化しています。大手プラットフォーマーのモデルも連日のようにバージョンアップされ、それらを活用した新しいプロダクトやサービスが次々とリリースされている状況です。そのため、いま手にしている成果やノウハウが短期間で陳腐化してしまうリスクが非常に高いと言えます。こうした高速な技術アップデートのなかで、継続的に学習や改善に取り組まなければ、ビジネス成果を持続的に生み出すことが難しくなるのが大きな課題です。
1-2.ドメイン選定と独自データ
AIは汎用的に活用できる反面、プラットフォーマーとの真っ向勝負になりやすい領域ほど、資本力やデータ量で劣る企業は不利になりがちです。そのため、「どこで差別化を図るか」というドメインの選定が非常に重要になりますが、「自社ならではのデータがない」という思い込みから、結果的にプラットフォーマーと同じ土俵で競合せざるを得ないケースも少なくありません。自社に眠っている顧客行動データや過去の実績、業界特有の知識などを十分に活用できなければ、独自の価値を発揮できずに終わってしまうリスクがあります。
1-3.深い業務プロセスの理解
プロダクトを利用する現場のプロセスをどれだけ正確に理解できているかが、AI活用の成否を分けます。例えば広告クリエイティブでは、出稿媒体やターゲットごとに最適な構成が異なるうえに、戦略的な意図も踏まえたチューニングが必要です。ユーザーストーリーや要件定義を適切に行わなければ、生成されたコンテンツが成果に結びつかないどころか、ユーザーが使いにくいサービスとして敬遠される可能性があります。