「脱構築」──カオスを秩序へ組み替えるプロセス
ここで中沢氏は、リゾーム的なカオス(業務実態)をツリー的な秩序(システム構造)へと変換する過程を、「脱構築(Deconstruction)」という言葉で表現した。
「脱構築」とは、単に破壊することを意味しない。語源的には「構造(Construction)」を「分解(De-)」することであり、中沢氏はこれを「削ぐ、噛む、固める」プロセスだと説明する。
業務の現場には、例外処理や暗黙知といった「絡まり合った根(リゾーム)」が無数に存在する。これをそのままシステム化しようとすると、スパゲッティコードのような複雑な仕様ができあがってしまう。
だからこそ、一度その絡まりを徹底的に解きほぐす必要があるのだ。「この情報は本当は何なのか?」「なぜこの業務がつながっているのか?」を問い直し、情報の粒度(Information)まで分解する。そして、本質的な要素だけを選び出し(削ぎ)、論理的に噛み砕き、新たな構造として固め直す。
「情報を徹底的に整理し脱構築をしながら、Information Architectureを設計しましょう。結果として、DBとUIも整合します」
と中沢氏は語る。リゾームを理解した上で、あえてそれを解体・再構築し、堅牢なツリー(構造)へと落とし込む。この「翻訳」のプロセスこそが、エンジニアやデザイナーに求められる技術の本質なのだ。
「コンパウンドプロダクト」による解決への挑戦
最後に中沢氏は、自身が開発に携わる「DRESS CODE」(SaaSとマーケットプレイスで構成されたワークフォースマネジメントプラットフォーム)のプロダクト思想について触れた。
現在、企業のバックオフィス業務は「SaaSの乱立」によって分断されている。人事、労務、情シス、総務がそれぞれ異なるシステムを持ち、データが散在している状態だ。これはまさに、業務のリゾーム性を無視し、個別のツール(ツリー)を林立させてしまった結果と言える。
Dress Code社が目指すのは、これらを統合する「コンパウンドプロダクト(複合型製品)」だ。
その核となるのが、「People Graph and Core DBs」と呼ばれる統合データベースである。従業員に関するあらゆるデータをSSOT(Single Source of Truth:信頼できる唯一の情報源)として一元管理し、そこから人事・労務・IT・総務といった各機能へデータを供給する。
リゾーム的な現実を理解し、強固なデータモデルという「基礎」の上にUIを建築する。そうすることで初めて、DBとUIが整合し、長く使い続けられるソフトウェアが生まれるのである。
明日から使える「情報建築」の視点
本セッションの最大の学びは、「使いやすいUIを作るためには、まず目に見えない業務の『根(リゾーム)』を直視しなければならない」という点にある。
われわれはつい、画面上のボタン配置や配色の議論(=家具や装飾の話)に終始してしまいがちだ。しかし、中沢氏が示した通り、その下にある「データモデル(基礎)」や「情報の構造(柱・梁)」が業務の実態(リゾーム)と整合していなければ、どんなに美しいUIも形骸化する。
明日からの実務において、以下の問いを立ててみてはどうだろうか。
- リゾームの発見:自社の業務において、「組織図の縦割り」では見えていない、現場特有の「情報のつながり」や「非公式なフロー」はないか?
- 構造の検証:現在のシステムやデータベースは、その複雑なつながり(多相性・接続性)を受け止められる構造(基礎)になっているか?
- 脱構築の実践:既存の枠組み(帳票や画面)を一度解体し、情報単位(Information)まで分解して再定義できているか?
「情報を建築する」という視点は、エンジニアやデザイナーだけでなく、組織をマネジメントするすべてのリーダーにとって、混沌とした現代を生き抜くための必須の「技術」となるだろう。
Dress Codeからのお知らせ
Dress Code株式会社は「あらゆる業務を整理し、誰でも自然に気持ちよく実行できる」をミッションに掲げ、業務の「摩擦問題」という社会課題に挑戦するスタートアップです。現在、情シス業務、人事労務業務、採用業務、総務といった様々な領域の業務課題解決のためのソリューションを構築し、それらを統合したコンパウンドプロダクトを目指しています。

