データはあるのに「市場学習回数」が増えないのはなぜか
プロダクトマネジメントにおいて最も重要なのは、「何を作るべきか」を発見し、アウトプット(機能のリリース)ではなくアウトカム(顧客と事業への価値)を創出することである。そのためには、施策を小さく試してユーザーの実際の反応から学びを得るPDCAのサイクルをいかに高速で回し、その回数を増やすかが鍵となる。LIFULLでは、この仮説検証を通じて顧客から学ぶサイクルのことを「市場学習回数」と呼び、重要視している。
しかし、現場では多くのプロダクトマネージャーが「スピーディーにPDCAを回せない」という課題を抱えている。
日本最大級の不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S」を運営するLIFULLでは、以前は旧世代のGoogleアナリティクスを利用していた。当時の状況について、LIFULL HOME'S事業本部の梁取義宣氏は「非常に属人的なデータ設計になっており、分析が困難だった」と振り返る。抽出データの一部を推計するのではなく、全データを集計する「非サンプリングレポート」をダウンロードしようとすると待ち時間が長く、トークンを使い切って順番待ちになるなど、データを取り出すこと自体が大きな障壁となっていたという。
また、定額制動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」を提供するグロービスでも、同様の課題が存在していた。同社では定量分析と定性データ収集・アクション実行で異なるツールを使用していたため、それぞれにログを仕込む二度手間が発生し、ツールをまたいで分析結果を確認しなければならないなど、スピード感に欠ける運用となっていた。
こうした「データはあるが俊敏に動けない」状態から、両社はどのように脱却したのだろうか。
【LIFULL事例】「データの民主化」がもたらした市場学習回数の1.5倍向上
LIFULLは、プロダクト開発の課題解決のため、2021年春にプロダクトアナリティクスツール「Amplitude」を導入した。その成果は目覚ましく、市場学習回数は導入前の1.5倍、施策成功率は2.8倍、創出コンバージョン(CV)数に至っては10倍に跳ね上がったという。
この実績を含め、Amplitudeプラットフォームを駆使してビジネス成長や業界発展への多大な影響を与えたリーダー企業として、同社はAmplitude社主催の「Pioneer of The Year」を日本企業として初めて受賞している。
劇的な変化を生み出した背景には、全社一斉導入ではなく「スモールスタートからの拡大」という戦略があった。
賃貸プロダクトユニットのユニット長を務める水野幸恵氏によれば、まずは「LIFULL HOME'S 賃貸」の部署でテスト的に導入を開始したという。「Amplitudeの架空データを使って改善提案をする社内コンテストに応募するなど、まずは部署内で『使ってみる』ことから始めました」と水野氏は語る。そこでポツポツと成果が出始めたことで、「これを使わないともったいない」という機運が高まり、成功事例を真似する組織文化に乗って売買領域など他部署へも広く拡大していった。
水野幸恵氏(株式会社LIFULL 「LIFULL HOME'S賃貸」プロダクト責任者)
分析のアプローチも大きく変わった。従来は最終コンバージョンを直接上げようとして無駄打ちが多くなっていたが、導入後は「最終コンバージョンに圧倒的に貢献している手前の行動(先行指標)」を分解・特定し、その行動を促す施策へとシフトした。
「この行動の有無でCVRが5倍も違うといったことがパッと分かるようになり、チームがその手前の行動を上げるためのアプローチに集中できるようになりました。これを繰り返すことで、自然に市場学習回数が増えていったのです」(水野氏)
さらに、横断プロダクトユニットでプロダクトマネージャーを務める井上洸太朗氏は、ミーティング中の変化を指摘する。「議論の最中に『あのデータどうだったっけ』となれば、その場でツールを開いて確認し、『じゃあこうしよう』と即決できることが日常的に起こっています」と語り、データを使う文化そのものが変容したことを強調した。
井上洸太朗氏(株式会社LIFULL 「横断プロダクトユニット」 プロダクトマネージャー)
【グロービス事例】エンジニア工数ゼロでCTRを改善する「自給自足のグロース」
データ分析の民主化を推し進め、市場学習回数を向上させたLIFULLに対し、導入企業4400社、累計会員数140万人を突破する「GLOBIS 学び放題」を展開するグロービスでは、分析にとどまらず、プロダクトマネージャーがエンジニアを介さずにアプリ内施策を直接実行できる「自給自足」の体制を構築している。
同社でプロダクトマネージャーを務める白濱順哉氏は、同サービスのカスタマーサクセスを担当するDearOneの伴走支援も受けながら、Amplitudeの「Guide & Surveys」という機能を活用し、ユーザー体験を損なうことなくガイドやアンケートを画面上に直接表示させている。
例えば、ユーザーにとって便利な「後で見る(ブックマーク)」機能や「倍速再生」機能が埋もれてしまっているという課題に対し、該当箇所にツールチップ(ピン機能)を表示して強調する施策を実施した。
「初期の導入こそエンジニアに頼みますが、それ以降の施策の埋め込み、分析、そして次の施策立案というサイクルをプロダクトマネージャーだけで完結できるのが大きなメリットです」と白濱氏は語る。結果として、エンジニア工数をかけることなくCTRを向上させることに成功した。
また、定性データの収集と即時連携も強力な武器となっている。動画の字幕に誤字があった場合、ユーザーがサーベイ機能を通じて問題を報告すると、それが即座に社内のSlackに通知される。NPS調査で得られた定性的なフィードバックもAIでサマライズし、ユーザーの生の声を開発の優先順位付けに直結させている。
白濱氏は分析のプロセスについて、「まずは事業の重要指標となるファネルチャートなどで全体像を把握し、そこからジャーニーマップで具体的な変遷を確認します。最終的には一人ひとりのユーザーの行動を細かく追う『N1分析』へと解像度を上げていく流れで進めています」と解説した。
