プロダクトマネージャーが世界を救う──必要とされる背景とは
書籍『プロダクトマネージャーになりたい人のための本』のアイデアは及川氏が着想した。クライス&カンパニーが持つ、プロダクトマネージャー職支援の経験を活かせると考えたからである。本書の3人の著者(松永拓也氏・山本航氏・武田直人氏)は、多数のプロダクトマネージャーやプロダクトマネージャー候補と接してきた経験があり、プロダクトマネージャー人材を必要とするクライアント企業とも交流がある。企業が抱く要望や、プロダクトマネージャー自身が転職に際して直面する課題について理解し、それらの課題を解決する方法論を有している。
及川氏は「私の持論は『プロダクトマネージャーが世界を救う』です。プロダクトマネージャー人材の需要は高まっていますが、不足しています。プロダクトマネージャー職を志す人が増えれば、さまざまな課題が解決されます。書籍によってクライス&カンパニーの人材事業だけでなく、世の中に幅広く貢献できるのではと考えました」と語った。
及川氏の提案に松永氏、山本氏、武田氏も賛同し、出版企画が進んだ。山本氏は「私たち3人はプロダクトマネージャー職の支援をしているものの、プロダクトマネジメント自体を本業としているわけではありません。書籍の制作がプロダクトマネジメントに通じるものと考えました」と振り返った。
本書では、プロダクトマネージャー職の定義や国内におけるその需要の動向について触れ、具体的なビジョンやニーズについての考察もある。武田氏は、「市場が非常に活況です」とし、クライス&カンパニーにプロダクトマネージャー職候補として登録された人や求人企業の推移を明かした。登録者は2023年7月時点で2019年から比較すると約5倍に増加、企業の求人数も同期間において約8倍に増加しているという。
その背景について松永氏は「ITやWebの一般への浸透が影響していて、ユーザーが多様な選択肢の中から自身が何を選ぶかを決められるようになってきたことが言えます。ユーザーの要望を迅速にプロダクトに反映するための意思決定者が求められるようになっているのです」と説明した。従来のように一度売ったら終わりという状況から、ユーザーに常に選ばれ続けることが必要となっているのだ。
さらに及川氏は、リアルビジネスとデジタルの融合が進行中であり、今やプロダクトとそれを売る人という形だけでなく、一連の業務すべてが連携している形態となっていることを示し、次のように解説する。
「例えば、ドラッグストアではスマートフォンとの連携が当たり前になっています。スマホでクーポンを発行して、店頭に来てもらうようにし、購入して貯まったポイントは自社のECサイトで使えるようになるなど、すべてが組み合わさった形になっています。以前は店舗だけの運営をしていればよく、POS端末と後方のサーバーだけのシステムでしたが、現在はそうではなくなっています」(及川氏)
及川卓也(おいかわ・たくや)氏
1993年にMicrosoftでWindowsの開発に従事し、2006年にはGoogleに移り、9年間プロダクトマネージャーとエンジニアリングマネージャーとしてChromeやGoogle日本語入力等の開発に携わる。2015年からプログラマー向け情報共有コミュニティサービス「Qiita」のプロダクトマネージャーとして活躍した後独立。2017年からクライス&カンパニー顧問となり、2019年にテクノロジーを活用して企業や社会の変革を支援するTably株式会社を設立。