生成AIサービスにおけるUXの課題
現状、一部の生成AIサービスに対し「使いづらい」「実用性に欠ける」といった声も聞く。その根底には、1つ、UXの未成熟さという問題が存在する。極端な例えではあるが、それは時として「超優秀な部下とトランシーバーだけでやり取りしながら仕事をする」ような状況に類似している。いくら部下が優秀でも、情報共有やコミュニケーションの手段が限られていては、その能力を存分に発揮することは困難である。一部の生成AIサービスも同様の課題を抱えている。例えば、チャットという限定的なインターフェースでは、生成AI技術の能力を十分に引き出せていない場合もあるのだ。
生成AIは、従来のITプロダクト開発で活用されてきたツールとは異なる特性を持っていると考えられる。特に、「人間的な知的能力を有するような挙動が可能である」という点は、生成AIの大きな特徴の一つだろう。もちろん、これはあくまで筆者の見解であり、生成AIを従来の技術とこのように明確に区別することが常に適切だと主張するつもりはない。しかし、従来のITプロダクト開発の常識にとらわれることなく、生成AIのこのような特性に着目することで、人間同士がコミュニケーションしたり協働したりする様子のアナロジーから学び、AIならではの強みを活かした新たなUXの設計手法を見いだせる可能性がある。
生成AIネイティブなUX設計の5つの観点(1/3)
では、生成AIの力を最大限に活用するには、プロダクトのUXをどのように設計すべきか。私たちは日々の議論と実践を通じ、以下の5つの観点を重視するようになった。
1.AIをオンボーディングする
人間同士の協働では、タスクを効果的に遂行するためには、新規メンバーに必要な情報を共有する「オンボーディング」が不可欠だ。例えば、プロジェクトの目的、各メンバーの役割、期限、リソースなどの情報を共有し、全員が同じコンテキストを持ち作業を進めることが求められる。これと同様に、AIとの協働でも、タスク遂行に必要な情報をAIに適切に与える仕組みが重要となる。
例えば、AIと共同でプログラミングを行うようなプロダクトでは、ソースコードやドキュメントをAIと共有し、AIがコンテキストを理解した上でタスクに取り組める環境を整えたい。そうすることで、より質の高いアウトプットを得ることが可能になるのだ。このような情報共有が自然になされるUXを設計することが、生成AIサービスの実用性向上に貢献する。
具体例として、AIを活用したコードエディターであるCursorでは、エディタがソースコードのフォルダにアクセスできる状態にすることで、自然と必要な情報がAIにシェアされる。さらに、追加でドキュメントを読ませることで、コードベースについてより精度の高い理解を得られるような機能を設けている。