木下 寛大(きのした・かんた)
株式会社Wellnize 代表取締役 兼 執行役CEO。
楽天株式会社(現 楽天グループ株式会社)にて、全社横断のマーケティングデータ分析プラットフォームの開発・運用、データサイエンスチームの立ち上げ、ビッグデータを活用したビジネス開発、電子書籍事業のプロダクト開発マネージャーなどを経て、2017年、新規事業立ち上げにかかるコンサルティング・システム開発・マーケティングの支援を提供する株式会社Co-Liftを設立(代表取締役 共同CEO、現職)。2024年、株式会社Co-Liftが共同出資する形で株式会社Wellnizeを設立し、代表取締役 兼 執行役CEOに就任。2024年9月には株式会社明治との資本提携も発表し、明治のマーケティングDXの推進に注力している。
大企業とベンチャーの文化の差を越え、新しい価値を創出
Wellnize(ウェルナイズ)は、明治の持つ「食・ヘルスケア」に関する研究成果や製品づくりの知見に加え、Co-Liftおよびゲキジョウの強みであるデジタル技術を融合させ、「健康で豊かな社会の実現に貢献すること」を目的として2024年3月に設立された。同年12月には、新サービスとして、腸内タイプ別パーソナルケア「Inner Garden」をローンチしている。一人ひとり異なる腸内タイプを判別し、タイプに合った素材の入ったココア飲料を提供するというユニークなものだ。

順風満帆に見える同社だが、大企業とベンチャーという文化が異なる組織から人が集まれば、齟齬や摩擦が生じないはずがない。実際、WellnizeとCo-Liftの代表を兼務し、プロダクトマネージャーとして調整役を担った木下氏は「四苦八苦した」と振り返り、その経験から「文化と文化の架け橋になるためには『メタ認知の力』が必要」と語る。「メタ認知」とは、自分の認知(理解・判断・論理などの知的機能)活動を客観的に捉えて制御することで、時に他者に対しても発揮される。
一般に、デジタル畑を歩き、ベンチャーで仕事をしてきた人は、大企業と仕事をする際に「意思決定が遅い」「保守的でリスクを取らない」「儀式的なプロセスが多い」「根回しや調整が多い」「前例主義」「柔軟性が低い」と、やりにくさを感じる人は多い。しかし、協力して仕事をするためには、そうした差異や違和感に対して「どのように向き合うべきか」を考える必要がある。
木下氏は、「ちょっと話が飛ぶが」と前置きしつつ、「ガブラ人のラクダの話」を紹介した。北ケニアで暮らす「ガブラ」という牧畜民は、家畜であるラクダをねだる風習があるという。与えられたラクダは贈与や交換ではなく、処分してはならない。その一方で貸与というわけではなく、「よほどのこと」がない限り返却する必要はない。
「いったいどういうことだ?」と思う人も多いだろう。しかし、これを文化人類学の研究者が調査したところ、「ラクダをねだる風習」が彼らの生活の中で重要な意味を持つことが分かった。それはラクダの管理を他者に分散することで、疫病や敵の襲撃などで自分の集落のラクダが全滅するなど、「よほどのこと」があった場合の「保険」にするのだという。
ソフトウェアエンジニアリングでいえば、RAIDやマルチリージョン構成であり、自分の管理するものを冗長化し、何らかのトラブル時に速やかに復旧するための考え方と同じというわけだ。

木下氏は「一見、自分たちから見て不可解で不合理に見える事象でも、その社会の中では必ず『合理性』がある。それを理解するには、自分たちの合理性を俯瞰して相対化し、彼らの合理性と照らし合わせるといった、『メタ認知』が有効だと感じる」と語る。