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ProductZine Day&オンラインセミナーは、プロダクト開発にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「ProductZine(プロダクトジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々のプロダクト開発のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

ProductZine Dayの第3回。オフラインとしては初開催です。

ProductZine Day 2024 Summer

ProductZine Day 2024 Summer

「プロダクトマネージャーカンファレンス 2024」レポート(AD)

「アジャイルかウォーターフォールか」で対立しない、大企業とベンチャーの文化の差を越えるメタ認知の視点

「プロダクトマネージャーカンファレンス 2024」レポート

 株式会社Wellnizeは、食品会社大手の明治と、デジタル系ベンチャーのCo-Lift、ゲキジョウの3社で設立された共同事業会社だ。協力して新たな価値の創出を目指す中で、CEOを務める木下寛大氏は「文化が異なる利害関係者同士の調整に四苦八苦し、『メタ認知』の重要性に気づいた」と語る。その理由と方法とは、どのようなものなのか。12月5日〜6日に開催された「プロダクトマネージャーカンファレンス 2024(pmconf 2024)」での講演をレポートする。

木下 寛大(きのした・かんた)

株式会社Wellnize 代表取締役 兼 執行役CEO。

楽天株式会社(現 楽天グループ株式会社)にて、全社横断のマーケティングデータ分析プラットフォームの開発・運用、データサイエンスチームの立ち上げ、ビッグデータを活用したビジネス開発、電子書籍事業のプロダクト開発マネージャーなどを経て、2017年、新規事業立ち上げにかかるコンサルティング・システム開発・マーケティングの支援を提供する株式会社Co-Liftを設立(代表取締役 共同CEO、現職)。2024年、株式会社Co-Liftが共同出資する形で株式会社Wellnizeを設立し、代表取締役 兼 執行役CEOに就任。2024年9月には株式会社明治との資本提携も発表し、明治のマーケティングDXの推進に注力している。

大企業とベンチャーの文化の差を越え、新しい価値を創出

 Wellnize(ウェルナイズ)は、明治の持つ「食・ヘルスケア」に関する研究成果や製品づくりの知見に加え、Co-Liftおよびゲキジョウの強みであるデジタル技術を融合させ、「健康で豊かな社会の実現に貢献すること」を目的として2024年3月に設立された。同年12月には、新サービスとして、腸内タイプ別パーソナルケア「Inner Garden」をローンチしている。一人ひとり異なる腸内タイプを判別し、タイプに合った素材の入ったココア飲料を提供するというユニークなものだ。

 順風満帆に見える同社だが、大企業とベンチャーという文化が異なる組織から人が集まれば、齟齬や摩擦が生じないはずがない。実際、WellnizeとCo-Liftの代表を兼務し、プロダクトマネージャーとして調整役を担った木下氏は「四苦八苦した」と振り返り、その経験から「文化と文化の架け橋になるためには『メタ認知の力』が必要」と語る。「メタ認知」とは、自分の認知(理解・判断・論理などの知的機能)活動を客観的に捉えて制御することで、時に他者に対しても発揮される。

 一般に、デジタル畑を歩き、ベンチャーで仕事をしてきた人は、大企業と仕事をする際に「意思決定が遅い」「保守的でリスクを取らない」「儀式的なプロセスが多い」「根回しや調整が多い」「前例主義」「柔軟性が低い」と、やりにくさを感じる人は多い。しかし、協力して仕事をするためには、そうした差異や違和感に対して「どのように向き合うべきか」を考える必要がある。

 木下氏は、「ちょっと話が飛ぶが」と前置きしつつ、「ガブラ人のラクダの話」を紹介した。北ケニアで暮らす「ガブラ」という牧畜民は、家畜であるラクダをねだる風習があるという。与えられたラクダは贈与や交換ではなく、処分してはならない。その一方で貸与というわけではなく、「よほどのこと」がない限り返却する必要はない。

 「いったいどういうことだ?」と思う人も多いだろう。しかし、これを文化人類学の研究者が調査したところ、「ラクダをねだる風習」が彼らの生活の中で重要な意味を持つことが分かった。それはラクダの管理を他者に分散することで、疫病や敵の襲撃などで自分の集落のラクダが全滅するなど、「よほどのこと」があった場合の「保険」にするのだという。

 ソフトウェアエンジニアリングでいえば、RAIDやマルチリージョン構成であり、自分の管理するものを冗長化し、何らかのトラブル時に速やかに復旧するための考え方と同じというわけだ。

 木下氏は「一見、自分たちから見て不可解で不合理に見える事象でも、その社会の中では必ず『合理性』がある。それを理解するには、自分たちの合理性を俯瞰して相対化し、彼らの合理性と照らし合わせるといった、『メタ認知』が有効だと感じる」と語る。

メタ認知で相手の「合理性」を理解し、双方が納得できる「落とし所」を見いだす

 例えば、ベンチャーと大企業の文化で対立が起きがちなのが、「アジャイル(開発)か、ウォーターフォール(開発)か」という論争だ。ベンチャーが関わるプロダクト開発では、変化が激しい市場に適応する必要があり、小さく作って市場に当てながら調整する「アジャイル」が有効な場合が多い。一方、大企業では確実な計画かつ着実な遂行がかなう「ウォーターフォール」を好む傾向にある。これらについて「どちらが正しいか」を論点とすると、戦うか従うかという二元論に陥ってしまいがちだ。その結果、対立して物別れに陥るか、従ってむざむざと失敗するか、いずれにしても共創は難しい。

 それでは、対立ではなく、協調するためには、どうすればいいのか。木下氏はベンチャー側の視点から、「どのような合理性に基づくとウォーターフォールが正しい選択となるのか、相手方の目線で『合理性』を考えることが大切」と指摘する。

 例えば、上場企業のトップの目線で考えてみれば、株主・株式市場から「株価が上がり」「利益が増え続ける」という要求があり、経営者としては「持続的な成長への予測を提示したい」「予測を上回る実績を作り続けたい」という思いがあって、「確実な成長計画と着実な遂行」を求めるのは必然と理解できる。さらに、組織の性格上、現場にもそうした考えが共有されていると考えるのが自然だろう。

 大企業側からのそうした要請に対し、木下氏は「合意形成には重力がある。それなら抗わないのが得策」と語る。つまり、どんなに強引に「アジャイルで」と決めたとしても、市場からのプレッシャーがある中では、確実な計画と着実な遂行との相性が良いウォーターフォールの方に合意形成の重力が働き、いつのまにかうやむやになっていく恐れがある。それならば、重力で引かれる方にあらかじめ「代替案」を用意しておき、そこに合意のボールを落とそうというわけだ。それは「相手の文化の中で自分たちも合意でき、お互いに満たしたい要件を考える」というアプローチである。

二元論ではなく、要件に立ち戻ってのアプローチで合意点を見いだす

 「アジャイルとウォーターフォール」では相いれなくても、そもそもの観点QCDS(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:デリバリー、Scope:スコープ)について「求められること」であれば、両者とも納得して共有できるだろう。つまり、QCDSごとに何が求められているのかを共有し、その解決策としての「ソリューション」に落とし込めれば、合意できるポイントを見いだせるのではないか、というわけだ。

 Qualityなら、「大企業として、ブランドを毀損するような品質問題が発生しないこと」が求められ、その対策として「チケットの受け入れ基準の中で、品質要求を明確にする」というソリューションが考えられる。つまり、品質要求が満たされたものの総和によって求められる品質をクリアするという考え方だ。

 Costも「限られた期間の限られた予算をオーバーしないこと」がマストなら、各機能の費用として個別に認められにくくても、「チームサイズを固定して費用を固めること」で月間または年間予算が明確となり、要望が通りやすくなるだろう。

 Deliveryについてはちょっと難しいが、「約束した期日に約束した機能が利用可能になること」が求められると捉え直せば分かりやすい。

 例えば、エピック(アジャイル開発における作業単位の一つ)単位で優先順位をつけ、ロードマップを引いたとしよう。市場とユーザーを理解していれば、直近の優先順位はそうブレることはない。先のものは「やってみてからどちらが大切かを決める可能性」はあるが、変更の際に、その都度しっかりとコミュニケーションがとれていれば、必ずしも厳格にスケジュール通りでなくとも認められるはずだ。

 また、機能をプロダクトバックログに落とし込んだ時、仕様や要件をガチガチに決めずに、チケット単位で機能の一部の優先順位を下げてスコープアウトして「改善アイテム」にすることもできる。木下氏は、「スコープには広さだけでなく深さもあり、それを浅くすればデリバリーの期日に間に合わせる調整弁となる。アジャイルかウォーターフォールかというフレームワークに関わらず、求められていることと実際に行うべき解決策にフォーカスして考えると、案外突破口はあるのではないか」と語った。

 木下氏は、「不可解で不合理に見えても、その社会・文化の中での合理性が必ずあり、その理解を深めなければ一緒に仕事をしていくことは難しい。そこで良い悪いという判断は留保し、まずはその文化がどのような合理性で駆動しているのかを観察し、理解していくことが重要だ」と語り、「さらに理解できても、合意形成の重力に抗えばうまくいかない。かといって、迎合して同化するのもうまくいかない。『どっちも』を取れる突破口を常に考え続けることが大切」と改めて強調した。

 とりわけベンチャーと大手の論争の種になりやすい、「アジャイルかウォーターフォールか」については「まぜるな危険」と言われることも多く、調整は難しい可能性がある。しかし、プロジェクトが前に進まないことより、「たとえアンチパターンである可能性があっても、うまくいく方法を考え続け、進み続ける方が建設的ではないか」と木下氏は語り、「プロダクトマネージャーの最も重要な役割は、さまざまなステークホルダーの文化と文化の間に橋を掛けること」と言い切った。そして、「お互いの文化を理解し、その理解に基づいて、お互いが合意がしやすい解決策を考えていく。そのためにメタ認知を活用してみてほしい」と語り、セッションのまとめとした。

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提供:株式会社Wellnize

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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https://productzine.jp/article/detail/3127 2025/01/23 12:00

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