2.ディスカバリーフェーズ
このフェーズでは、顧客やビジネスに価値をもたらすことを軸に、アイデアを発想・検証・優先順位付けし、フィードバックやインサイトに基づいて継続的に改善を繰り返します。ここでは主要な4つの活動について、現状の課題とAI活用の可能性を見ていきます。
| 活動 | 現状 | AI活用後 |
|---|---|---|
| データ分析 | 手動で横断分析、数日〜数週間 | 異常値自動検出、自然言語クエリ |
| ユーザーインタビュー | 数十件を手作業で聞き直し・分類 | 自動文字起こし・テーマ抽出 |
| リサーチ | 幅広いソースから手動収集 | 自動収集・要約・仮説生成 |
| PRD作成 | ゼロから数日かけて執筆 | 初稿自動生成、抜け漏れ検出 |
データ分析
プロダクト分析ツール(Pendoなど)から得られる大量の利用状況データ、解約率、コンバージョン率などを手動で横断的に分析し、パターンを見つけます。複数チャネル(アプリ内フィードバック、Slack、サポートチケット、コミュニティ)から流入するデータの統合や、定量データ(利用状況)と定性データ(ユーザーの声)の突き合わせも手作業です。機能が使われない理由が「見つけにくさ」なのか「価値がない」のかを判断するには、多大な時間と労力がかかります。
AIを使うと……
特定機能の利用率急落など、大量データからの異常値やトレンドを自動検出できます。解約率の上昇とサポートチケット増加の関連性といった、複数データソースの自動統合と相関分析も即座に実行。自然言語でデータに問い合わせることも可能になり、分析のサイクルが大幅に短縮されます。
ユーザーインタビュー
数十件のインタビューを聞き直し、重要な発言を手動で抽出・分類します。複数のインタビューにまたがる共通テーマや矛盾する意見を人力で横断分析し、大量のフィードバックを適切なアイデアに紐づける——この作業は時間がかかるだけでなく、分析者の主観に偏るリスクもあります。
AIを使うと……
インタビュー録画の自動文字起こしと要約生成により、「聞き直す」作業がなくなります。複数インタビューの横断分析では、共通するペインポイントや頻出テーマを自動抽出。発言内容の感情分析やセンチメント分類(ポジティブ/ネガティブ/ニュートラル)も可能です。さらに、インタビュー内容から関連するプロダクトバックログのアイデアへの自動マッピングを提案させることで、インサイトからアクションへの橋渡しが加速します。
リサーチ
市場調査、競合分析、業界動向のようなレポートの作成において、幅広いソースから手動で情報を収集・統合します。アンケートの設計から結果のまとめ、インサイトへの変換まで、一連のプロセスに時間を要します。
AIを使うと……
競合他社の動向や市場トレンドの自動収集・要約により、情報収集のスピードが劇的に上がります。アンケートの自由記述回答の自動分類・テーマ抽出、大量の調査レポートからの関連情報の高速検索・要約も可能に。調査結果に基づく仮説の自動生成や、次に検証すべき項目の提案を受けることで、リサーチからアクションへの移行が早まります。
プロダクト要求仕様書(PRD)の作成
問題定義、ソリューション定義、仮説、成功指標、リスク評価を一貫した書式で体系的にまとめます。技術的実現可能性、ユーザー価値、ビジネス実現性、リソース制約の4つのリスクを網羅的に評価し文書化する作業は、経験豊富なプロダクトマネージャーでも数日を要することがあります。
AIを使うと……
プロダクトバックログのインサイト、ユーザーインタビュー、分析データなどからPRDのドラフトを自動生成できます。過去の類似PRDとの整合性チェックや抜け漏れの自動検出、ユーザーストーリーの自動生成提案も可能です。プロダクトマネージャーは「ゼロから書く」作業から解放され、AIが生成した叩き台の精査と意思決定に集中できます。
また、ディスカバリーフェーズで簡単なプロトタイプを作成し、ユーザーインタビューに活用することもあるでしょう。ReplitやLovableのようなAIアプリビルダーを使えば、PRDから実際に動くプロトタイプを生成できるため、ユーザーインタビューの質を高めることも可能になります。
ディスカバリーフェーズにおいても、AIの出力をそのまま鵜呑みにしないことが重要です。データの解釈、優先順位の最終判断、「この課題は本当に解く価値があるか」という問いへの答え——これらはプロダクトチームが担い続ける意思決定です。
プロダクトマネージャーによるAI活用の実践については、2026年2月に開催されたDev X PM DayでのJosysの小俣さんのセッションが参考になるので、こちらもあわせてお読みください。
3.デリバリーフェーズ
ディスカバリーで「何を作るか」が定まったら、それを実際にプロダクトとして形にし、ユーザーに届けるフェーズです。このフェーズはAI活用が最も進んでいる領域のため、簡潔に触れるに留めます。
エンジニアがコードを一行ずつ書き、テストコードも手作業で作成します。コードレビューはチームメンバーの空き時間に依存し、ボトルネックになりがちです。ドキュメントは後回しにされがちです。リリース後のデータ分析もアナリストに依頼し、結果が返ってくるまでに数日かかることもあります。
AIを使うと……
コード生成・補完、テスト自動生成、コードレビュー支援により、実装スピードは大幅に向上します。リリースノートの自動生成、データの異常検知、A/Bテスト結果のサマリもAIがリアルタイムに提供してくれます。エンジニアは定型的なコーディングから解放され、アーキテクチャ設計や技術的トレードオフの判断、セキュリティ・倫理面のレビューといった、より高度な意思決定に集中することが可能になります。
本稿では主に、戦略策定とディスカバリーの2つのフェーズにおけるAIの活用を考察してきましたが、共通するパターンがあります。AIは「大量の情報を処理し、構造化し、叩き台を作る」ことに圧倒的な力を発揮しますが、「何を選び、何を捨てるか」「この品質で十分か」「次にどこへ向かうか」という判断と意思決定は、人間が担い続ける領域です。AIの導入で変わるのは、人間が判断に使える時間の量と、判断材料の質なのです。

皆さまご承知のとおり、AIはものすごいペースで進化しています。本稿が公開されている時には、この内容も陳腐化している部分があるかもしれません。それでも、顧客にとって「価値」を提供するためには「プロダクトディスカバリーが重要であること」「意思決定を行うのはプロダクトチームであること」は変わらないと考えています。
これまで4回にわたり、プロダクトチームをテーマに寄稿してまいりました。これらの記事が皆さまのプロダクト開発のヒントとなれば幸いです。
