あなたの会社はどのタイプ? 「詰まりポイント」のセルフチェック
どうでしょうか。ここまで読んで、「ああ、耳が痛い……」「これ、全部うちの会社のことだ……」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
ここで、あなたのチームが今、どんな「見えない重力」にさらされているのかを可視化するために、簡単なセルフチェックをしてみましょう。これは、誰かを責めるためのテストではありません。あくまで、現状を客観的に把握し、次の一手を考えるための「健康診断」のようなものです。
評価尺度に関する診断
- プロジェクトの進捗会議で、3年後のビジョンより、来月の売上予測について話す時間の方が長い。
- あなたの事業のKPIが、既存の主力事業のものと、ほぼ同じ項目で構成されている。
失敗許容度に関する診断
- 「もし失敗したら、誰が責任を取るんだ?」という言葉を、会議で(あるいは自分の心の中で)聞いたことがある。
- 小さな失敗の経験談よりも、大きな成功事例ばかりが社内で共有されている。
意思決定に関する診断
- 10万円程度の予算を使うために、3人以上の役職者の承認印が必要だ。
- 会議で「それはいったん持ち帰って検討します」という言葉が頻繁に使われる。
組織のサイロに関する診断
- 開発チームと営業チームが、お互いに「何を考えているかよく分からない」と感じている。
- 他部署に協力を依頼する際、正式な依頼書や稟議書が必要になる。
時間軸に関する診断
- プロジェクトが始まって1年も経たないうちに、上司から「で、いつ黒字化するの?」と聞かれた。
- あなたのチームの目標が、年度や四半期単位で設定されており、達成できないと評価が下がる。
いくつ、チェックがついたでしょうか?
もし、一つでもチェックがついたなら、あなたはまさに、この連載が届けたいと願っている「大きな組織の中で、新しい挑戦をしようとしている人」です。そして、その悩みは、決してあなた一人だけのものではありません。
もし、多くの項目にチェックがついたとしても、絶望する必要はありません。それは、あなたが今、非常に「典型的な」大企業の新規事業が直面する課題のど真ん中にいる、という証拠です。正体不明のモヤモヤに悩むのではなく、課題をこうして言語化できたこと、それ自体が、解決に向けた、非常に大きな一歩なのです。
まとめ:正体を知れば、道はひらける
今回は、大企業の新規事業がなぜか進まない、その背景にある「5つの構造的ハードル」について、詳しくお話ししました。
ここまで読んで、なんだか暗い気持ちにさせてしまったら、ごめんなさい。
でも、私が一番伝えたかったのは、これらの問題は「誰か一人の悪意」や「特定の個人の能力不足」によって引き起こされているわけではない、ということです。むしろ、会社がこれまで成功し、成長してきたからこそ必然的に生まれる、いわば「成長痛」や「副作用」のようなものなのです。
だから、まずは自分やチームを責めるのを、今日で終わりにしませんか?
敵の正体を知る。そして、それが個人的な資質の問題ではなく、乗り越えるべき「仕組み」や「環境」の問題なのだと理解する。それだけで、少しだけ気持ちが軽くなりませんか? 見えないお化けにおびえるのではなく、目の前のハードルの高さや形を、冷静に認識すること。それが、すべての始まりです。
この連載では、今回ご紹介したようなハードルを、どうすれば乗り越えていけるのか。あるいは、正面からぶつかるのではなく、どうすれば賢く迂回できるのか。そんな、明日から使える具体的な思考法やアクションについて、皆さんと一緒に探求していきたいと思っています。
次回は、特に技術力に自信のある会社ほど陥りがちな罠、「プロダクトアウトの幻想」というテーマを深掘りします。「こんなにすごい技術があるんだから、絶対に売れるはずだ!」……その、一見すると正しそうな自信が、なぜ危険なのか。その理由と、乗り越え方についてお話しする予定です。
それでは、また次回、お会いしましょう。