はじめに
皆さん、こんにちは。ProductZineでこのたび連載をさせていただくことになりました、ブルーグラフィー株式会社の伊藤景司です。私は以前、ソニーで世の中にまだない新しいプロダクトの立ち上げに奔走し、IoTスタートアップなどを経て、現在はブルーグラフィーという会社を立ち上げて、新規事業やプロダクト開発に挑む多くの大手企業の皆さんと、日々現場で汗を流しながら伴走支援をしています。これから、皆さんの新しい挑戦に寄り添い、少しでもその背中を押せるようなお話ができればと思っています。どうぞ、よろしくお願いします。
さて、突然ですが、皆さんの職場でこんなことは起きていませんか?
「会社の未来のために、新しい事業を創るぞ!」
そんな熱い掛け声とともに、社内のエースや若手のホープが集められ、鳴り物入りでプロジェクトが発足する。キックオフミーティングは熱気に包まれ、未来への希望で誰もがキラキラしている。
……しかし、その半年後。
プロジェクトは、まるで粘度の高い泥水の中を進むように、遅々として進んでいない。会議の数は増えたのに、何も決まらない。メンバーの顔からは輝きが消え、「本当にこのプロジェクト、やる意味あるんだっけ……」なんて空気が漂い始めている。
このような事態が起きているのは、決してあなたやチームメンバーの能力が不足しているわけでも、熱意が足りないわけでもありません。
特に、歴史と実績のある大きな会社ほど、新しいことを始めようとするとまるで強力な重力のように、見えない力にぐぐっと引き戻される感覚に陥ることがあります。成功体験が豊富で、盤石な組織であればあるほど、その力は強く働くのです。
このような現象は、経営学の大家であるクレイトン・クリステンセン氏が提唱した「イノベーションのジレンマ」という言葉で、見事に説明されています。ものすごくざっくり言うと、「優良企業が、既存顧客のニーズに応え続けることに注力するあまり、市場を破壊するような新しいイノベーションに対応できずに失敗してしまう」という理論です。
クリステンセン氏が示したこの偉大な理論は、現象をマクロな経営戦略の視点から捉えています。一方で、私がこの連載で光を当てたいのは、そのジレンマの内部で、現場の担当者が日々、肌で感じる「組織内部の摩擦」そのものです。
いわば、イノベーションのジレンマという大きな構造の中で、担当者一人ひとりが直面する、よりミクロで、生々しい葛藤のことです。会社を成功に導いてきた「強み」や「当たり前のルール」そのものが、新しい挑戦の「足かせ」になってしまうという、この皮肉な現実。これこそが、多くの挑戦者を苦しめている正体だと考えています。
「うちの会社はイノベーションを求めているはずなのに、どうして誰も本気でやらせてくれないんだ……」
そんな孤独や憤りを感じている方もいるかもしれません。
でも大丈夫です。その感覚は、決して間違っていません。そして、そのジレンマには、実はいくつかの共通した「構造的な理由」があるのです。
今回の連載第1回では、その「“動かない”理由」の正体を、皆さんと一緒に、じっくりとひもといていきたいと思います。
