AIプロダクトを成功に導く「JCT」フレームワーク
ラヴェル氏の根底には、21歳の時にチリのサンティアゴの貧困地域で、配管のない住民の生活を改善する「Ducha Halo」というプロダクトを生み出した原体験がある。テクノロジーは常に思っているよりもシンプルであり、「抽象的なもののために作るのではなく、人々が実際に生活している方法(人間の現実)を理解すること」こそがプロダクトなのだ。
この深い理解のもと、AI時代の工場を適切に稼働させるためには、AIがコモディティ化できない3つの要素「JCT」が必要だと提唱する。
1つ目はJudgment(判断力)だ。ラインから「何を出し、何を出さないか」を決める力を指す。
Salesforce時代、ラヴェル氏は技術的に高度なディープラーニングをすべて盛り込もうとしたエンジニアの提案を退け、ネットワーク遅延などを考慮して機能を基礎的なものに絞ってローンチさせた。最も印象的な問題ではなく、正しい問題を解決した結果、初年度の目標を1200%上回る大成功を収めた。
また、95%の精度を持つ機械が10ステップ連続すると、ラインの最後に出てくる全体の精度は60%に落ちる(ルッサーの法則)。インフラの「ファイブナイン(99.999%)」を求める顧客に対し、現在のAIエージェントは1〜2つの「9(90%〜99%)」でしか稼働していない。だからこそ、「狭く始めることが印象的なことに勝る」のだ。
2つ目はContext(コンテキスト)だ。工場の「原材料」となる顧客の現在のオペレーション背景を指す。
Google CloudとServiceNowの連携プロジェクトにおいて、Deloitteの顧客が熱狂したのはプラットフォームそのものではなく、両ベンダー単独では提供できない「顧客固有のビジネスロジック」を当てはめることができたからだ。コンテキストの収集は顧客の即時的な価値と一致させる必要があり、AI時代において価格決定力はこの「コンテキストの深さ」からのみ生まれる。
3つ目はTrust(信頼)だ。顧客が信じる「品質管理」を指す。
AIは確率的であり、毎回同じ結果を出す決定論的なソフトウェアに慣れた導入企業の担当者には不安が残る。プロダクトが「間違ったときに何が起こるか?」に答えられなければならない。NotionはBraintrustを用いた評価システム(Evals)を構築したことで、1日に特定するAIの問題が3件から30件に増えた。本番環境の可観測性、ガードレール、バージョン管理、そして「Human-in-the-loop(人間の介入)」といったインフラのスタックを構築し、見えない失敗を見える化することが不可欠だ。
プロダクトマネージャーの新たな職務定義と明日へのアクション
ラヴェル氏は最後に、プロダクトマネージャーの役割は大きく変わったと断言した。
「機能の仕様書を書くこと自体が目的になっているなら、あなたの価値はあっという間にAIに取って代わられ、陳腐化してしまうでしょう。しかし、AIという工場の『責任の境界』を定め、顧客独自の複雑な『背景(コンテキスト)』を設計に落とし込み、AIが自律的に動くための『信頼』を仕組みとして広げていく。こうした役割を担うのであれば、あなたの価値はかつてないほど高まります。私たちはAIに置き換えられるのではなく、より高度な意思決定を担う存在へと『引き上げられている』のです」
また、2年後の市場の変化を見据え、2つのアクションを提示した。
1つ目はエージェントカードの作成だ。2028年までに、企業は専用の調達予算枠を設け、人間の営業ではなく買い手側エージェントが「機械が読み取れる機能主張(エージェントカード)」を評価してベンダーを選ぶようになる。90日以内にその作成に取り掛かるべきだとした。
2つ目は成果ベースの価格実験だ。今後、サブスクリプションはシート数ではなくコンテキストの深さに応じてスケーリングする。自分が最も深いコンテキストを持っているワークフローを1つ選び、「成果ベース」の狭い価格設定実験を実行することを推奨した。
最後に、日本の参加者へ向けて力強いメッセージが送られた。
Findyの調査によれば、AIによってシニア開発者は生産性が30〜50%向上した一方、ジュニア開発者は25%低下した。これはAIの能力ではなく、AIの仕事を指揮する「判断力」の問題だ。
「日本の産業界には『Plan-Do-Check-Act(PDCA)』という、正しく行い大規模にスケールさせる規律がある。日本はこの規律をAIに適用すべきだ。この変革を勝ち筋に変えるための『チャンスの窓』が開いている時間は、長くともあと18〜36か月しか残されていない」
「ソフトウェアが自らを構築する時代、私たちは生活をより良くするプロダクトのための『工場』を建設するのだ」
ラヴェル氏の熱を帯びたセッションは、会場の大きな拍手とともに締めくくられた。
参加者の熱量と今後の展望
当日の参加者からの感想や気づきは、Xのハッシュタグ「#pdm_summit_findy」に多数寄せられており、イベントの熱気を今も感じることができる。機能開発のスピード競争から抜け出し、「何を、なぜ作るのか」という本質に立ち返る時期が来ていることを、多くのプロダクトマネージャーが実感した一日となった。
なお、本イベントの登壇資料はアーカイブページで一部公開されている。各セッションのアーカイブ動画も今後順次更新される予定だ。当日の空気をより深く味わいたい方は、ぜひチェックしてほしい。
