ERPと業務システムの「ライフサイクル」に対する考え方を進化させる
過去に基幹システムの導入、アドオン開発などに関わった経験がある人の中には「ERPパッケージの開発は、独自の言語や開発環境のスキルが不可欠で、かつ大規模になりがち。ユーザーにとっては、コスト面の負担が大きく、時間もかかる」というイメージがあるかもしれない。そのイメージは、あながち間違いではない。
実際、ERPパッケージに直接手を入れるような形でのカスタマイズには、専門のスキルが必要なケースがほとんどだ。事前に、導入パートナーと綿密に仕様を打ち合わせ、開発を依頼する必要がある。特に日本でERPパッケージが普及し始めた当初には、導入時に、自社の業務にパッケージ側を適合させるためのカスタマイズ、アドオン開発を大量に行う企業も多く見受けられた。その結果、柔軟性が失われ、硬直化してしまった基幹システムを、運用でカバーしながら十数年の長期にわたって使い続けることになったケースも少なくない。
カスタマイズが多ければ多いほど、パッチ適用やバージョンアップで影響を受ける範囲は広くなり、事前の確認や事後の修正に時間とコストがかかる。基幹システムがビジネスの根幹に関わるものである以上、障害による停止は許されない。すると、ユーザーにとって恩恵があるようなパッチ適用やアップデートであっても、実施には必要以上に慎重にならざるを得ない。
そもそもの話として、パッケージの中核となっているプロセスを、旧態依然とした自社のやり方に合わせるように変えてしまっては「グローバルのベストプラクティスに準じて基幹業務を標準化できる」という、パッケージの最大のメリットさえ享受できていないことになる。
こうした「基幹システムの硬直化」に陥らないために、企業はERPのライフサイクルに対する認識を進化させていく必要がある。SAPは、最新のERPである「SAP S/4HANA」で、基本的に年1回のバージョンアップを行い、各バージョンのサポート期間を5年に設定している。つまり、ユーザーは最低でも「5年に1度」のペースでERPをバージョンアップしていく必要がある。このサポートサイクルは、SAPが最新の技術や知見を製品へ迅速に反映させ、ユーザーがその恩恵を享受しやすくするためのものだという。
ユーザーがその恩恵を最大限に享受するためには、「パッケージを業務に合わせる」のではなく「業務をパッケージに合わせる」ことを意識しながら、極力カスタマイズや追加開発を行わず、標準状態に近い形で使っていくことが望ましい。それが、バージョンアップ時の、作業負荷やコストを削減することにつながるためだ。
「基幹業務の中核となるプロセスは、短期間で大きく変化するものではなく、そこが差別化のポイントとなるケースも少ない。企業間で、大きな競争力の差を生みだすのは、より頻繁に変化する、より現場に近い周辺の業務プロセスだ」(本名氏)
本名氏は、パッケージ内部で行う、従来のような形式でのカスタマイズを「イン・アップ(In-App)拡張」、より業務現場に近いところで行われる周辺システムの開発を「サイド・バイ・サイド(Side-by-Side)拡張」と呼んだ。「サイド・バイ・サイド開発」が適するのは、ビジネス要求の変化に応じて迅速な開発、改善が求められるシステムだ。求められる「変化」のスピードを見きわめて、「イン・アップ」と「サイド・バイ・サイド」を適切に切り分けながら、ERPを中心に展開する業務システム群の効率的な開発運用体制を整えていくことが、ERPと、そこに蓄積されたデータの価値の最大化することにつながる。
「定型作業の自動化、最新技術やデバイスの活用による業務の効率化は、人間が、より価値の高い仕事を行うための時間を生みだす。SAP Process AutomationやSAP AppGyverは、特にそうした領域でのビジネス貢献にフォーカスしたプロダクトだ。これらをSAPに統合されたプラットフォーム上で利用することで、各業界のベストプラクティスが反映された業務アプリケーションを迅速に開発できる」(本名氏)
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