本記事は、ソフトウェア開発者向けのオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」からの転載記事です(オリジナル記事)。
エンジニアのキャリアパスは2択!?
冒頭、「エンジニアのみなさんは、将来のキャリアパスについて、どのように考えているか」と問いかけた村上氏。よくあるエンジニアのキャリアパスは、新人エンジニアから始まり、次第にできることが増えて中堅エンジニアになる。その先は、そのままスキルを極めてベテランエンジニアになるか、プロダクトマネージャー(PM)や開発マネージャーのような管理職に向かうかのいずれかであることが多い。
本セッションのスピーカーである村上氏は、組み込みエンジニアとしてキャリアをスタートさせた。その後、WindowやMac向けのソフトウェア開発を経て、グレープシティに入社。開発支援ツールのテクニカルサポートやPMを担当後、現在はマーケティング部でPMMを務めている。
この後、なぜグレープシティにPMMという職種が必要なのかの理解を深めるために、グレープシティが提供している開発ツールを2つ紹介しておこう。
JavaScript開発ライブラリ「Wijmo(ウィジモ)」
Webアプリケーション開発者向けのJavaScriptコントロールセット。データグリッドやチャート、ゲージ、入力、ナビゲーションなどの豊富なUIコントロールを提供している。膨大なデータを高速に一覧表示したり、チャート化して見やすくしたりすることもできる。
ExcelやPDFを作成・編集するAPIライブラリ「DioDocs(ディオドック)」
ドキュメントを作成・編集するAPIライブラリ。ExcelファイルやPDFファイルをC#およびVB.NETのコードからAPIを利用して操作できる。例えば、社内に散らばる複数のExcelファイルからデータを取り出して、1つのファイルにまとめて出力できる。
グレープシティのツール事業部では他にもさまざまなソフトウェア開発支援ツールを提供しており、こうしたツールの開発から販売、購入後のテクニカルサポートを行う事業を展開している。
PMMの仕事とは
Product Marketing Managerの頭文字を取ったPMM。米国で最近登場した新しい役職であるという。「私自身エンジニアだった頃は、マーケティングは非常に縁遠いものだと感じていた。必要なのは分かるけれど、どこかの誰かがうまいことやってくれているだろうと。自分に関係あるとは、まったく思っていなかった」と村上氏は振り返る。
しかし、実際にPMMになってみると、特にソフトウェア業界では、エンジニアに適性がある仕事ではないかということがよく分かったという。
PMMの仕事ができたのは、PMの仕事があまりにも多すぎたからだとして、村上氏は下記のプロダクトマネジメントトライアングルを提示した。「これはDan Schmidt氏が提唱したもので、PMの仕事を表している。『PMの仕事は、製品を軸として「お客さま・開発者・ビジネス」の要素を必ずはらんだ形で表出してくる』と彼は言っており、まさにそのとおりだと思う」。
Dan氏がざっと挙げただけでこれだけの仕事がある。もちろん他にもある。「これらすべてが健全に機能しなければプロダクトマネジメントはうまくいかない」というDan氏の指摘に異論はないが、あまりにも仕事が多すぎやしないだろうか。そこでPMの仕事の中から一部を切り離し、PMMの仕事にしてはどうかということで、PMMの仕事が生まれた。具体的には、お客さまとビジネスに関する業務(下図、黄色部分)だ。
そして開発者とビジネスに関わる業務(下図、緑色部分)は、PMと協調して仕事を進めていくとされている。例えば、PMが考えたロードマップをもとに、PMMがビジネスの観点から「ローンチ予定日の辺りに大きなITイベントがあるので、そこで発表するのはどうか」といった提案をして準備を進めるといった具合だ。実際、PMとPMMがどう仕事を分担するかは、企業によって異なる。
グレープシティのPMMが期待されている役割について、「『市場の特定→製品訴求→お客さまの創出→商談』のサイクルを回し続けることだ」と村上氏は語る。自社の製品を求めている顧客がどこにいるのかを特定し、そこに対して訴求を行う。顧客に情報が届き検討が進んだら、営業に引き渡して商談へとつなげる。そこで顧客からフィードバックを得たら、それを材料として再び市場の特定へと入っていく。
中でも、既存製品を長く取り扱っているビジネスでは、製品訴求がメインの仕事になってくる。つまり市場(顧客)に対して製品を「語ること」だ。語ると言っても、口頭で説明する限りではない。「認知→興味・関心→検討→購入」へと至るマーケティングファネルにおいて、例えば認知段階の顧客に対して「製品Webサイトの作成」や「イベント出展」などを、興味・関心段階の顧客に対しては「ブログ」や「セミナー」など、検討段階の顧客に対しては「事例」や「ホワイトペーパー」などを用意する中で“語って”いく。
このようにさまざまな形で製品を語るには、製品に精通していることが条件となる。幅広い製品知識を持っていることはもちろん、製品の使用方法や活用方法も熟知していなければならないし、どんな製品にも必ずある欠点を補えるよう、ポジティブな変換ができる力も求められる。「特に、ソフトウェアビジネスのような製品が複雑なケースでは、製品を“語れる”エキスパートを育成することは困難だ」と語る村上氏。だからこそエンジニアの経験が活かされるのである。
PMMがエンジニアの新たなキャリアパスとしてオススメな理由
村上氏はPMMとして働く中で、自身がエンジニアとして培ったスキルが活かされたと感じた場面に遭遇した。グレープシティは国内外に拠点を有しており、各拠点にマーケティング部がある。マーケティング部の基本構成は、コンテンツ作成、広報・宣伝、サイトデザイン、アナリティクス・SEOだというが、PMMがいる拠点といない拠点があるという。「拠点ごとの戦略に基づく話なので、PMMがいたほうがいいとは一概に言えないが、PMMがいない拠点ではコンテンツ作成で非常に苦労しているという話を聞いた」。
例えばブログ記事を作成する場合。「製品の概要・セットアップ方法(環境構築を含む)・機能の使い方・実装方法(サンプルコードを含む)・応用例」を書いていくが、PMMがいない場合、以下の図のような流れで作成していくという。
マーケティング部だけでは完結できず、随所にPMや開発部が絡んでいることが分かる。マーケティング部の中にはコードが書けるレベルの人がいないためだ。マーケティング部で記事公開のスケジュールを引いても、PMや開発部のスケジュールに大きく左右されるため、なかなか思うように進まないという問題も生じる。
だからと言って、PMMを新たに立てるのは容易なことではない。マーケター出身のPMMでは上記の課題を解消できず、マーケターが実用レベルのエンジニアリングスキルを身につけるのは学習コストが高すぎる。「われわれの製品がライブラリなこともあるが、SaaSやPaaS、Web APIといった高度なソフトウェアを取り扱っている企業では、同様のことが起こり得るのではないか。私のようなエンジニアのバックグラウンドを持ったPMMがいると、マーケティング活動が非常にスムーズに進められるようになる」と村上氏はその有用性を説いた。
エンジニア出身のPMMがマーケティング活動において果たせる役割が大きいことは分かったとしても、そもそも何を語ればいいのか分からないという人もいるだろう。そんなときにはサポート経由で入ってきたお客さまの質問がヒントになるという。例えば「○○の機能が動きません。△△といったシチュエーションで使いたいのですが?」と質問がきた場合、エンジニアであれば「その状況であれば、こっちの機能のほうが適している」といった回答が自然と思い浮かんでくるのではないだろうか。それをコンテンツにして語れば良い。「マーケティングだからと言って、何も身構える必要はない」と強調しつつ、「エンジニアの新たなキャリアパスとしてPMMを検討してほしい」と村上氏は語り、セッションを締めた。