体制の整備が追い付かない大企業ならではの課題
最近、日本の大企業ではマーケティング活用・消費者とのタッチポイント拡大などを目的にプロダクトの開発、導入を行うケースが増えています。クーポンを発行でき、ポイントを貯められる機能を持つようなアプリ開発が代表的で、特に直接コンシューマーとつながりたいと思っているBtoCメーカーなどの企業でこれを行う傾向がよく見られます。
メーカーの場合、卸や小売りを通じて間接的に商品をユーザーに届けておりダイレクトなタッチポイントが少ないため、「お客様に直接、情報を届けたい」「ユーザーがどのように商品を使っているのかを知りたい」「どんな声があるのか把握したい」といったニーズが強くあります。
そのためユーザーとの接点を作り、商品情報の提供やフィードバックを得る目的でプロダクトを導入する動きが強まっており、これが大企業のプロダクトマネージャーの求人増加につながっています。
中には、既存事業とあまり関係ないジャンルの新サービスや新しいユーザー体験が得られる新規事業を始めるためにプロダクト開発が必要となり、プロダクトマネージャーの採用を始めるケースもあります。
一方で、IT系のスタートアップやテック系のメガベンチャーなどと比べると、大企業のプロダクトマネジメント組織は、すでに組織の整備が進んでいる企業もありますが、全体的な傾向としてまだまだ発展途上で十分にプロダクト開発体制が確立されていない企業が目立ちます。
整備が進んでいるほうの企業では、「〇〇デジタル」といったデジタル子会社を設立し、本社のCDO(Chief Digital Officer)が代表を務め、DXの推進とともにエンジニアやデザイナー、プロダクトマネージャーを採用しているケースが見られます。
わざわざデジタル子会社を作るのは、本社内でデジタル事業やデジタルサービスを立ち上げようとすると給与体系や人事制度と不整合が生じたり、既存事業とのカニバリズムが発生したりするためです。こうしたケースではすでにプロダクトマネージャーが社内に存在し、プロダクトマネジメントの概念もある程度浸透しており、ITスタートアップほどではなくても組織として一定の整備が進んでいることが多いです。
一方、大企業本体の事業部の中でプロダクト開発を始める、あるいは新規事業部門が作られるケースでは、プロダクトマネージャーを募集していても、往々にしてエンジニアが社内にまったくおらず、開発リソースは外部のベンダーやグループのシステム子会社に依頼していて、考え方も含めまだプロダクトマネジメントが浸透していないケースもあります。
中にはプロダクトマネージャー募集といっても、ビジネスサイドの人材が「こういうプロダクトを作りたい」と考え、プロジェクトの進行管理やベンダーコントロールを任せるだけの、いわばプロジェクトマネージャー的な役割に制限されている求人もあります。大企業におけるプロダクトマネージャー組織の成熟度には企業ごとにかなりの差があり、全体としてはまだ発展途上の企業が多いのが現状といえます。
誤解のないように付け加えれば、大企業と言っても長年にわたりIT事業を手掛けている企業は今回の話の対象外です。小売業でEC化を早くから手掛けている企業も比較的進んでいますが、やはりコンシューマーからの距離が遠い企業はようやくプロダクトマネージャーという職種が必要だと理解して募集をはじめてみたものの、組織体制や業務プロセスなどの整備が追い付いていない企業がまだまだ多いという状況です。