チームの垣根は溶けていく。日本企業がAIネイティブ時代を勝ち抜くための「暗黙知」
AIの普及により、誰もが“フルスタック”な動き方ができるようになる中、チームのコラボレーションのあり方も変わっていく。プロダクトマネージャーがデザインやエンジニアリングの領域にまで踏み込み、全員でアイデアに貢献する新しいワークフローが求められている。
では、このAIネイティブ時代において、日本企業はどこに活路を見出すべきか。中出氏は、LLM(大規模言語モデル)などの基盤技術では米国企業が先行していると認めつつも、「ミドルウェアやアプリケーションレイヤーにはまだまだ勝機がある」と断言する。そして、日本企業ならではの強みとして「暗黙知」の存在を挙げた。
「AIは結局、与えられたデータや文章を学習しているに過ぎません。日本の企業が面白く、かつチャンスだと感じるのは、組織の中に『暗黙知』が非常に多く存在している点です。空気を読んだり、過去の文脈を踏まえた暗黙の了解で意思決定が続いていて、しかもそれが意外に正しいという強みがあります。
これを経営やプロダクト開発に活かすためには、その暗黙知をしっかりとドキュメンテーション(言語化)し、AIが読み取れるコンテキストとして保存・連携する体制を作ることが重要です。それができる企業はAIを活用して大きく伸びるでしょうし、できなければ潮流に乗れなくなっていくはずです」(中出氏)
AIという「新入社員」に最高のパフォーマンスを発揮させるためには、組織内に眠る文脈(コンテキスト)を与えなければならない。FigmaがMCPなどを通じて外部データとの連携を強化しているのも、まさにこの「文脈の統合」を重視しているからに他ならない。
AIを「最強のパートナー」に育てるために、プロダクトマネージャーが取るべきアクション
本ラウンドテーブルから見えてきたのは、デザインツールの枠を超え、チーム全体の「協働プラットフォーム」へと進化するFigmaの現在地だ。
AIによって効率化できる「70点」の作業はAIに任せ、プロダクトマネージャーやデザイナーは残りの「30点」であるユーザー体験の磨き込みや、感情に訴えかける価値創造にフォーカスする。株式会社ディー・エヌ・エーの増田真也氏(グループエグゼクティブ ライブコミュニティ事業本部 本部長)も、パネルディスカッションのなかで「ロジックを積み上げる左脳的な部分はAIが担い、人間は『どう心を動かすか』という右脳的な体験設計によりフォーカスしていくことになる」と未来を予測した。
読者であるプロダクトマネージャーや開発リーダーへの実践的な示唆として、以下の2つのアクションを提示したい。
- 自らAIツールに触れ、手を動かすこと:中出氏が「まずは怖がらずに触ってみる、やってみることが大事」と語ったように、Figma Makeなどの生成AIツールを自ら使い、要件定義からプロトタイプ作成までのリードタイムを劇的に圧縮する体験をまずは味わうべきだ。
- 組織内の「暗黙知」を言語化し、AIのコンテキストとして整備すること:AIは文脈がなければ機能しない。属人化している仕様の背景や、過去の意思決定の経緯、自社のデザインシステムなどをドキュメント化し、AIが読み取れる形(Figmaへの連携など)に整えることが、これからのプロダクト開発組織における重要なインフラ構築となる。
Figmaは今後、日本市場において専任チームによる戦略支援やベストプラクティスを提供する「Figmaアドバイザリーサービス」を強化していくという。また、2026年6月には年次カンファレンス「Config 2026」の開催も控えており、さらなる機能拡張が予想される。
「プロトタイピングの民主化」の波に乗り遅れないよう、まずは自らの手でAIツールに触れ、組織の「文脈」を整える一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。
