誰もが「70点のプロダクト」を作れる時代に、どう差別化を図るのか
2025年、Figmaはニューヨーク証券取引所への上場を果たし、日本市場でも日経225構成銘柄の約3分の2の企業に導入されるなど、劇的な成長を遂げた。その成長の背景には、プロダクト開発における「AIの台頭」という大きなパラダイムシフトがある。
「今やソフトウェアをリリースしたり、動くコードを数分で生成したりすることが、これまでにないほど簡単になっています」と、Figma Japanのカントリーマネージャー川延浩彰氏は語る。AIというスーパーパワーを誰もが手にした結果、何が起きているのか。それは「Good enough(十分良い)」なプロダクトが世に溢れ、差別化が極めて難しくなる“コモディティ化”の進行だ。
多くのAIツールは、70点の完成度までは一瞬で導いてくれるが、残りの30%、つまり卓越した「Great」なプロダクトを生み出すところまでは約束してくれない。
この課題に対して、Figmaが提示するコンセプトが「床を下げ、天井を上げる(Lowering the Floor, Raising the Ceiling)」だ。
AIによってデザインのハードルが下がり(床が下がる)、これまでデザインになじみのなかったビジネスサイドの人間も創造プロセスに参加できるようになる。一方で、プロフェッショナルなデザイナーやプロダクトマネージャーは、AIに定型作業を任せることで、プロダクトの文脈理解や細部の磨き込みといった「残りの30%」にリソースを集中させ、創造性の上限を押し上げることができる(天井を上げる)というわけだ。
アイデア出しからコード生成まで。分断されたワークフローをつなぐAIアプローチ
しかし、現実のAI活用にはまだ壁がある。「多くのAIツールは、ブランドの文脈を理解しておらず、実際の開発プロセスから分断されています。その結果、アウトプットが実運用レベルに達せず、手戻りが発生してしまうのです」と川延氏は指摘する。
この「ワークフローの分断」と「文脈の欠如」を解消するため、FigmaはAIを中心としたプラットフォーム設計へと進化している。Figma Japan デザイナーアドボケイトの谷拓樹氏は、具体的なデモンストレーションを通じてその実力を示した。
例えば、オンラインホワイトボードの「FigJam」では、テキストプロンプトからミーティングのテンプレートを自動生成したり、大量の付箋をAIが分類・要約したりできる。さらに、ChatGPTやClaudeといった外部のAIエージェントに「フローチャートを作成して」と指示するだけで、FigJam上で直接編集可能なダイアグラムが生成される機能も搭載されている。
より強烈なインパクトを与えるのが、UI生成AIの「Figma Make」だ。テキストプロンプトを入力するだけで、数分で機能するプロトタイプが生成される。特筆すべきは、単なる汎用的なUIではなく、自社のデザインシステム(npmパッケージやFigma内のコンポーネント)を読み込ませることで、自社ブランドのルック&フィールに沿ったプロトタイプを最初から生成できる点だ。
さらに、「Figma MCP Server」を利用することで、仕様書や外部ドキュメントの「コンテキスト(文脈)」をAIに提供し、デザインからコードへの変換をシームレスに行うことも可能になっている。
「1か月かかっていたプロトタイプが1時間で完成」──テックタッチ 中出CPOが語るAI活用のリアル
こうしたツールの進化は、プロダクトマネージャーの業務プロセスをどう変えるのか。後半のファイヤーサイドチャットに登壇したテックタッチ株式会社 取締役 CPOの中出昌哉氏は、自身の驚くべき体験を語った。
従来、BtoBソフトウェアにおける新機能のプロトタイピングは、プロダクトマネージャーがPRD(製品要求仕様書)を作成し、デザイナーがFigmaで画面を作り、エンジニアが実装するというリレー形式で行われており、数週間から1か月以上かかるのが常だった。
しかし現在、エンジニアリングのバックグラウンドを持たない中出氏自身が、Figma MakeとClaude Codeを駆使して、動くプロトタイプを1人で作っているという。
「今リアルな場でやっているのは、私かデザイナーがFigma Makeを使って、ミーティングで話しながら『こんなのがあったらいいよね』とその場でプロトタイプを作ってしまうことです。お客様と話しながら『ここ少し違うね』と修正し、1時間くらいでざっくりとしたFigmaのプロトタイプが完成します。1か月かかっていたものが本当に1時間でできるようになっている。プロトタイプ作成が一気に早くなったと実感しています」と中出氏は語る。
これに先立って行われたパネルディスカッションでも、LINEヤフー株式会社の市丸数明氏(ショッピングSBU プロダクト開発1ユニットリード)が「プロトタイピングがものすごく民主化された。ミーティングの最中にFigma Makeでパッと作って『これどう?』と議論できるようになったのは、ものすごいスピード感の違いを感じる」と語っており、異なるセッションでありながらも、現場のリーダーたちが同様のスピード感や変革を実感していることが伺えた。
プロダクトマネージャーが自らの手でアイデアを即座に形にし、ステークホルダーと検証を回せる「プロトタイピングの民主化」は、すでに開発現場で起きているリアルな変革なのだ。
