Jacob Newman(ジェイコブ・ニューマン)氏
Principal AI Product Manager
AmplitudeのプリンシパルAIプロダクトマネージャーとして、AI時代における新しいアナリティクスのあり方を再構築する。主に、エンタープライズ企業に対するデータスタックのモダナイゼーション支援や、エージェント主導のプロダクト開発の推進、AIを活用した機能改善などに取り組む。
同社への入社以前は、AIおよび機械学習領域のアーリーステージのスタートアップでキャリアを積み、プロダクト開発に携わってきた。

プロダクト分析を再定義する「Amplitude AI」の全貌
優れたデジタルプロダクトを生み出すためには、ユーザー行動の深い理解が不可欠。しかし、従来のデータ分析は専門的なSQLの知識やBIツールを扱うスキルが求められ、限られたデータアナリストに依存しがちだった。こうした課題を背景に、全世界で4700社以上に導入されている行動分析ツールである「Amplitude(アンプリチュード)」は、2026年2月に「Amplitude AI アナリティクスプラットフォーム」へと進化を遂げた。
Amplitudeの強みは、Webのページビューやアプリの画面遷移といった単なるアクセス数ではなく、「ユーザー行動(イベント)」を軸にデータを捉える点にある。Webやアプリ、さらにはオフラインの店舗データまでをユーザーIDで紐付け、ユーザーがロイヤルカスタマーへと転換する分岐点(マジックナンバー)を解き明かす。さらに、データの収集(Sense)、分析(Decide)、そしてマーケティング施策やA/Bテストの実行(Act)に至るPDCAサイクル全体を、単一のプラットフォームで完結できる点が大きな優位性だ。
同社が提供を開始したAIエージェント(参考記事)は、このサイクルを劇的に加速させる。プラットフォーム全体を横断してサポートする「グローバルエージェント」に自然言語で問いかけるだけで、AIが瞬時にデータを可視化し、仮説を立て、A/Bテストのバリアントまで生成する。まさに、チームに専属の凄腕アナリストが加わったかのような世界観である。ここからは、Amplitude本社のPrincipal AI Product Managerであるジェイコブ・ニューマン氏の言葉から、AIがもたらすプロダクト分析の未来を深掘りしていく。
「What」から「Why」へ。エージェントが切り拓く新たな分析の次元
AmplitudeがAIエージェントの開発に至った原点は、非常にシンプルかつ本質的な顧客のペインだった。「多くの顧客にとって、チャートやダッシュボードを作成するためのUIや操作方法を学習することは高いハードルでした。組織内でそれができる人はごく少数だったのです」とニューマン氏は語る。AIによって誰もがセルフサーブでデータにアクセスできるようになるデータ分析の民主化こそが、第一の目的だった。
さらに、AIの導入は分析の「深さ」にも革命をもたらしている。過去10年間、プロダクト分析の現場で問われてきたのは「先週何人がボタンをクリックしたか」といった「What(何)」の質問が中心だった。これは単一の数字で答えられる簡単な問いである。一方で、「なぜ先週はこれだけの人しか製品を買わなかったのか」という「Why(なぜ)」の問いに答えるのは根本的に難しく、優秀なプロダクトマネージャーでなければ深く掘り下げることはできなかった。
「グローバルエージェントの素晴らしい点は、基本的な質問に答えるだけではありません。『なぜ過去半年間で5%減少傾向にあるのか』と質問すれば、裏側で人間なら何時間もかかる数百の分析を同時に実行し、10段階の深さでリサーチを行ってくれます」とニューマン氏は強調する。専門家でなければ不可能だった「Why」の解明を、AIが代替する時代が到来したのだ。
分析の最小単位は「イベント」から「トレース」へ
AIエージェントの普及に伴い、データ分析の手法そのものにも大きなパラダイムシフトが起きている。自社のプロダクトにエージェント(チャットボットなど)を組み込む企業が増える中、従来の「何回チャットを開いたか」といったイベント駆動型の分析だけでは、エージェントのパフォーマンスを正確に測れなくなっている。
「会話の中でエージェントがハルシネーション(幻覚)を起こしてユーザーを怒らせていないか、その会話の質がどう収益化につながったのか。こうした定性的な部分は、従来の手法では見えません」とニューマン氏は指摘する。そこでAmplitudeが新たに取り組んでいるのがエージェントアナリティクスである。
そこでは、分析の最小単位が従来の『イベント』に加えて『トレース』へと拡張される。ユーザーの入力から始まり、エージェントがどのツールやモデルを使い、トークンをどれだけ消費し、最終的にどう回答したか。この上から下までの一連の流れ全体(トレース)を分析することが、今後のプロダクト改善における鍵となる。
プル型からプッシュ型へ。プロダクトマネージャーのワークフローはどう変わるか
AIエージェントの進化は、プロダクトマネージャーやマーケターの日常的なワークフローも大きく変容させる。最も象徴的なのが、データ分析プラットフォームのあり方が「プル型」から「プッシュ型」へと移行する点だ。
これまでは、ユーザー自身がAmplitudeにログインし、自らの手でデータを引き出す(プルする)必要があった。「しかし今後は、エージェントが常にデータを監視し、SlackやMicrosoft Teamsなど、ユーザーが普段いる場所にインサイトをプッシュしてくれます。夜中の2時に障害が起きても、エージェントがアラートを出し、修正案まで提案してくれるかもしれません」とニューマン氏は語る。ログインの手間という摩擦がなくなることで、より多くのユーザーがデータに基づく意思決定の価値を享受できるようになる。
また、検索行動の変化に対応する新機能「AI Visibility」(AIの可視化)も注目すべきユースケースだ。現在、消費者の多くが商品購入や旅行先の選定において、Google検索だけでなくChatGPTやClaudeなどのLLMに相談している。しかし、これらのモデルが自社ブランドについてどう語っているかは、マーケティングチームにとって完全なブラックボックスだった。
AI Visibilityは、さまざまなプロンプトに対して各モデルが自社ブランドをどう評価し、競合と比較してどの位置にランク付けしているかを可視化する。さらに、ブログ記事のタイトルを変更した場合にLLMの回答がどう変化するかを公開前にシミュレーションすることも可能だ。「従来のSEOと同じように、モデルのトレーニングデータとして消費されることを意識したコンテンツパブリッシングが、将来の製品発見において極めて重要になります」とニューマン氏は解説する。
