連載で取り上げる企業と着目点
本連載で、主に対象とするスタートアップは、ある程度米国でのビジネスの地歩が固まり、日本を含む海外展開を視野に入れ始めたステージを想定している。単なる企業やソリューションの紹介にとどまらず、それらが注目されるに至った背景――米国でのビジネストレンドの変遷や技術的進歩――もあわせてお伝えすることで、読者の皆さんのビジネスにおけるヒントになれば幸いだ。
Snowflake――クラウドネイティブ・データウェアハウスの衝撃
「シリコンバレー直送便」第4回で取り上げる企業は、シリコンバレー(San Mateo)に本社を構えるクラウドネイティブ・データベースを開発するSnowflakeである。
今回は、同社のVP of Sales Engineering for Global Expansionを務めるSteve Herskovitz(スティーブ・ハーコビッツ)氏と日本法人代表の東條英俊氏にインタビューに対応していただいた。
ビッグデータにPay-as-you-goで挑む
ここ10年の間に、サブスクリプションというプライスモデルは、SaaSを中心に広く浸透した。調査会社Gartnerが「2020年までにソフトウェアの80%はサブスクリプションで提供されるようになるだろう」という予測を発表しているように、すでにスタンダードなプライスモデルとなっている(注1)。登場した当初は懐疑的に見られていたが、SalesforceなどSaaSベンダの華々しい成功によって、急速にソフトウェアの世界を席巻した。現在では、Oracle、Adobe、SAPなど従来はオンプレミスでライセンスモデルを採用していたベンダもSaaSシフトを加速させている。
いま米国で注目を集めているプライスモデルが、サブスクリプションをさらに先鋭化させたPay-As-You-Go(従量制)である。従量制自体は珍しい価格体系ではない。ガス、電気、水道といったインフラは従量制を基本としているし、インターネット接続も、昔は時間課金の従量制の時代があった。
Pay-As-You-Goはサブスクリプションの派生と見ることもできるが、比較した場合のPay-As-You-Goの特徴は、
- イニシャルコストを極力小さく(理想的にはゼロに)する
- 課金粒度をなるべく小さくする
という2点にある。経営環境が不透明さを増す現代において、初期投資を極力抑え、実験的な取り組みをクイックに繰り返す場合に非常によくフィットするモデルであり、現在多くのビジネス分野で注目を集めている。一方、従来ハードウェアへの初期投資がついてまわるITインフラ領域では相性の悪いモデルだった。
Snowflakeは、パブリッククラウドの機動性を最大限に活用することで、従来BI/DWH領域では困難であったスモールスタートとスケーラビリティを実現するデータベースを作り上げた。2012年創業でありながら、「ビッグデータをスモールスタートさせる」という革新的なビジネスモデルは多くのユーザを魅了し、急成長を遂げている。2020年2月には$479Mという巨額の資金調達も行い、ユニコーンの中でも企業評価額が100億ドルを突破した企業である「デカコーン(Decacorn)」の仲間入りも果たした(注2)。
本稿では、Snowflakeのアーキテクチャを掘り下げることで、従来のBI/DWH向けデータベースと比較した技術的な強みと差別化要素について見ていきたい。
注1
Gartner - Christy Pettey, Moving to a Software Subscription Model
注2
Crunchbase - Snowflake Gets $479M, Reaches Decacorn Status With $12.4B Valuation