はじめに
読者のみなさんの理解をそろえるために、IT部門の歴史について触れてみたいと思います。
Windowsが全盛になり始めた90年代前半(約30年前)は、「SI(System Integration)の時代」の始まりとも言えます。それまでは部門ごとや機能ごとにシステム化されていた時代から、部門横断、全社最適システムといった観点で「システムを統合」する時代へと変わっていったのです。これを機に、それまでハードウェアの提供/導入が中心だったITベンダーが「SIer(Systems Integrator)」と呼ばれ始めました。
また、このことは同時に、今まさに叫ばれている「2025年の崖」につながる「システムのレガシー化」(肥大化、複雑化、ブラックボックス化)の始まりでもあります。
「部門横断でどんなシステムを作るか?」とか、「全社最適とは何か」など、日本人は元来苦手なのでしょう。歴史的に「現場優先」。つまり「全社の仕組み」より「現場の改善」を重視した成功体験、よく言えば「現場重視」、有り体に言えば「現場任せ(=管理放棄)」を続けることに固執しているのです。
また、システム統合は、その後の90年代後半の「BPR(業務改革)」では人員削減を伴うものでしたが、終身雇用前提の日本では、不況期のリストラはできても、システム化に伴うリストラができないという側面もありました。必然、現場の声が大きくなることで、IT部門やSIerは単なる「御用聞き」となり、結果、日本中の企業が要件定義のできない、業務の分からない集団へと突き進むのです。
業務部門は「現場重視=個別最適」で、IT部門/SIerは「御用聞き」なのだから、30年もすれば、巨大な「レガシーシステム」ができあがります。果たして、責任を取りたくない経営陣、IT部門は、巨大なレガシーシステムの構築とお守りをSIerに丸投げをしていくことになるのです。
そして、そんな企業におけるIT部門は「誰かのためにシステムを作ったことがない」「新しい技術に触れたことがない」集団となっていきます。
DXを求められるIT部門の苦悩
前置きが長くなりましたが、経済産業省の「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」にもある通り、DXの推進が不可欠なので、ITのコストや手間の9割を占めている「レガシーシステム」からの脱却に取り組んでいるIT部門は、人手不足の巨大プロジェクトで手一杯で、DXにまで手が回らないのです。
しかし、これは本当でしょうか? もし手が空いていたらできるのでしょうか?
歴史的に、SIerに丸投げして、業務システム構築ノウハウもなく、どっぷりと古い技術の世界につかっている人たちにできるのでしょうか?
その間、リスキルはしてきたのでしょうか? 計画的な採用はできているのでしょうか?
課題は山積みです。IT部門は既存システムの刷新に手一杯であることを言い訳にせず、DXの推進で何をすべきか、今こそ向き合うべきなのです。