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ProductZine Dayの第3回。オフラインとしては初開催です。

ProductZine Day 2024 Summer

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事業責任者にとって「ベストなKPI設定・運用」とは? 経営視点でプロダクトを成功に導くための考え方

より精緻なKPI設定・実行のために、イタンジが実施した取り組み ─組織体制変更など─

事業責任者にとって「ベストなKPI設定・運用」とは? 経営視点でプロダクトを成功に導くための考え方 第2回

 「KPIの設計・運用」は、プロダクトマネージャーや事業責任者といった数字に責任を持つ立場の人を悩ませる問題の一つです。本連載では、不動産テックの企業として、バーティカルSaaSをマルチプロダクトで展開しているイタンジ株式会社のCOO 井口俊介さんに、豊富な実践経験やノウハウに裏付けられた考え方を解説いただきます。第2回は前回の「経営視点に基づくKPI思考」に続き、「ポートフォリオマネジメントとKPI設計の実践」についてです。(編集部)

はじめに

 数字に責任を持つ立場であるプロダクトマネージャーや事業責任者は、最適なKPIをどのように設計し、効果的に運用すべきか──。この連載では、イタンジ株式会社 取締役 副社長執行役員 COOである私、井口俊介が、実践を通じて得た知見をもとに、マルチプロダクトを展開するテクノロジー企業の視点から解説します。

 第1回では、マルチプロダクトSaaS企業のマネージャーに求められる「経営視点に基づくKPI思考」について取り上げました。続く第2回では、2024年11月に大規模な組織変更を実施したイタンジの事例を基に、ポートフォリオマネジメントとKPI設計の実践について解説します。

イタンジのターゲット、不動産業界が抱える課題とは

 イタンジがサービスを提供する不動産業界は、さまざまな課題を抱えています。

 その一つが、賃貸契約に関わる関係者が多いことによる業務の煩雑化です。賃貸ではケースバイケースではありますが、1件当たりの契約に、入居者、管理会社、仲介会社、物件オーナー、家賃債務保証会社、保険会社、ルームクリーニング会社など多くのプレイヤーが関与します。それぞれが個別に情報をやり取りしていると伝達の手間が増え、手続きが非効率になりがちです。

 業務効率化の遅れも大きな問題です。賃貸市場の規模は46兆円と大きいものの、業界の多くを中小企業が占めており、デジタル化の進展が遅れています。小規模な不動産会社では紙ベースの業務が依然として多く、事務処理の負荷が高くなっています。

 さらに、不動産業界の中でも賃貸領域の生産性が低いのも大きな課題です。不動産業界全体の労働者は130万人以上にのぼりますが、そのうちの半数以上(約67%)が賃貸業務に従事しています。それにもかかわらず、賃貸領域の売り上げは業界全体の半分以下(約45%)にとどまっており、1人あたりの生産性が低い状況が続いています。

出典:データ元は総務省統計局「令和3年経済センサス‐活動調査」
出典:データ元は総務省統計局「令和3年経済センサス‐活動調査

 こうした課題を解決するためにイタンジが提供しているのが、業務のデジタル化を支援するSaaSです。ペーパーレス化によって紙や印鑑を廃止し、作業の手間を削減するとともに、複数の関係者がリアルタイムで情報を共有できる仕組みを提供することで、賃貸契約業務の効率化と情報伝達の円滑化を目指しています。

これまでの、プロダクト全体を1つの組織・意思決定で担う体制が限界に

 バーティカル(業界特化型)SaaS企業として不動産業界に特化したサービスを提供しているイタンジですが、製品開発において大きな課題を抱えていました。その一つが、顧客企業のニーズに合わせたプロダクト数の増加によって、シャープなKPI設定・管理が難しくなった点です。

 イタンジは、不動産業界の課題を解決し、個々の業務のデジタル化を進めることで、大幅な生産性向上を推進しています。そのためには、各サービスの精度を高めるだけでなく、複数のプロダクトやデータを一気通貫でつなぐ仕組みが不可欠です。

 賃貸業務を包括的にカバーするためには、不足している機能を補うサービスを新たに開発したり、オープンイノベーションにより外部サービスを取り入れたりする必要があり、その結果、2024年時点で提供するSaaSプロダクト数は13にまで増加しました。

 当初はプロダクトの数が少なかったので、「全プロダクトを横断して、セールス、カスタマーサクセス、エンジニアが関与する」という管理が機能していたのですが、プロダクトの数が増えてくると、各プロダクトの機能開発や売上目標の設定があいまいになりやすいという問題が浮上したのです。

 例えば、プロダクトごとに見るべきKPIが異なるため、全社のKPIダッシュボードに不要な項目が増えて管理が困難になったのもその一例です。プロダクトAでは重要な指標が、プロダクトGには不要であるにもかかわらず、それらを統一的に管理しようとした結果、ダッシュボードの項目が膨大になり、運用が非効率化していました。この状態ではKPIの粒度があいまいになり、各プロダクトに最適な評価を行うことが困難になっていたのです。

次のページ
経営戦略とのつながりが整理されず、チーム最適のKPIに

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この記事の著者

井口 俊介(イタンジ株式会社)(イグチ シュンスケ)

イタンジ株式会社 取締役 副社長執行役員 COO 2010年に新卒でジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社に入社。約7年間、営業・トレーニングおよびプロダクトマーケティングに従事。2019年、Ross School of Business, University of MichiganにてMB...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://productzine.jp/article/detail/3298 2025/03/12 11:00

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