データの利活用で「ペーシェントエンゲージメント」を創出し、主体的な健康管理へ
優れたプロダクトを開発し、体験価値を提供する。その先にカケハシがビジョンとして思い描くのが、明日の医療の基盤となる医療プラットフォームの構築であり、エコシステムの実現だ。その実現までに、具体的にはどのようなロードマップを描いているのか。
その動力の一つとなるのが、全国の薬局の約20%の業務基幹システムをカバーすることで得られている、2500万人を超える患者の医薬データだ。どのような人がいつどういった薬を飲んでいるのかというデータに加え、薬剤師、もしくはユーザー薬局向けにLINEアプリ経由で利用できる患者フォローシステム「Pocket Musubi」を通じて、患者と接点を持つことができる。総額数兆円という医薬流通の動きをデータとして持ち、一人ひとりのエンドユーザーにもリーチできるネットワークがあることは、カケハシにとって大きなアドバンテージとなる。
それらをどのように役立て、社会課題解決に役立てていくのか。直近3年間は、その試行錯誤に取り組んできたという。そして、進むべき方向の指標の一つとして見いだしたのが、「ペーシェントエンゲージメント」だ。つまり、薬剤師など医療提供者とのコミュニケーションを深めることで、患者の自律的な健康管理を促し、より良い治療結果を得ようとするものだ。
例えば、糖尿病や高血圧、高脂血症の患者の60〜80%は、治療開始から半年以内に離脱する傾向にある。重症化すれば透析など高額な医療費が発生し、当人はもちろん家族にとっても大きな負担となり、国の医療費も増大する。これを防ぐためには、軽度の段階で治療を継続することが必須であり、そのためには、薬剤師が適切な説明を行い、治療継続の重要性や副作用の対処法を伝えることが有効となる。
また、患者は自身に何らかの体調不良がある場合に、それが病気であること、治療できることに気づいていないケースも多い。そこにコミュニケーションによって先回りし、気づきを与える機会があれば、早期の治療や予防につなげることも可能になるだろう。
「『Pocket Musubi』は現在200万人以上の患者さんにご利用いただいていますが、個人の健康管理を支援するプラットフォームとして1000万人規模への成長を目指しています。処方箋の電子化が進む中で、服薬や副作用管理に加えて、食事や運動の管理、ウェアラブルデバイスとの連携も視野に入れています。さらに、疾患に応じた薬剤師や医師を選べるなど、患者さんが自身の健康を主体的に管理するスーパーアプリとしての発展を目指しています」(中川氏)
アプリの外側でも、自分にあった薬剤師や医師を見つけてオンラインで診察を受けたり、治療後に薬局に寄らずとも薬が直接自宅に届いたり、さまざまな変化が生まれてくることが予想される。それらは単なる利便性向上に留まらず、よりよい医療体験を患者に提供することへとつながっていく。