組織変革への道③:NOという仕組みを実装し「解決すべき問題を決める方法を変える」
プロジェクトベースからプロダクトベースへ、「解決すべき問題を決める方法を変える」について、兼原氏はまず現在の「やることを決める」ための仕組みの問題点を指摘する。
プロジェクト型では、ビジネス部門は企画、開発部門は見積もりを出すこと、経営/執行は決裁が仕事となる。いわば「やることを決める仕事」だ。そのため、いつでも案件は緊急で重要なものであふれているというのが実情だろう。そのため、やることだけを決めるようでは、リソースが不足し、新しい施策をやりたくても1年後となり、負のスパイラルへと落ち込んでいく。

そうならないためにも、事業戦略と連動した、ヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源を適切に配分する「リソースアロケーション」が重要になる。実際、部門視点で見れば、すべてが緊急で重要というものも、事業目線で見ればかなり絞られるはずだ。そして、そうした判断を実現するためには、組織の中に「NO」という仕組みを実装することが重要だと言う。
具体的な方法として、兼原氏は次のような6ステップに分けて、コツとともに紹介した。
ステップ1:すべての依頼案件を統合化し、可視化を行う

ステップ2:ムダな見積もりや要件定義にかかっている工数を定量化
無駄を減らすことで開発案件に工数を回せることを定量的に示し、納得感を得ることが大切。

ステップ3:HiPPO(Highest Paid Person's Opinion)による「No」という仕組み
HiPPO=組織で重要な役職に就き、高給を得ているものの意見。アンチパターン(一見良さそうに見えて実際には問題を引き起こす典型的な失敗パターン)と言われることも多いが、これがなくては大企業では部門をまたいでの優先順位付けはできないため、決裁者の判断は重要。

ステップ4:すきまの「Why」をHiPPOに聞く
優先順位について決裁者に「なぜそうなるのか」を聞きながら、言語化を重ねることでプロダクトマネジメントとの溝を埋めていく。

ステップ5:既存のリリース計画を、アウトカムベースでひもづけし直していく
部門ごとの作業ではなく、事業単位で共通の効果指標にひもづくように機能リストを再編する。これがかなうと、会社の仕組みに組み込めるようになる。

ステップ6:「Noと言う仕組み」を会社のプロセスに組み込む
会議体や案件管理方法、優先順位決め、決裁規定、開発プロセスなどを整備し実装。「ここに来るまでに2年ほどかかる」(兼原氏)

兼原氏は、これらの施策を振り返り、「大企業の組織変革において、プロダクトコーチングは非常に幅広い領域をカバーする。文化レベルから具体的な実行フェーズまで支援し、事業とプロダクトの成長を実現するための重要な役割を担う」と語った。
そして、「プロダクトコーチングの目的は、単にプロダクト組織を構築することではない。事業とプロダクトの成長を阻害する要因を特定し、改革を進めることにある。そのため、組織横断で各レイヤーと密接にコミュニケーションを取りつつ、共に課題を解決し、変革を推進することが求められる」と強調した。

最後に兼原氏は、プロダクトコーチングにおいて大切にしていることとして、次の5つを挙げ、「大企業の方々と共有し、組織変革につなげていきたい」と語り、まとめの言葉とした。
- 見えない境界を見つけて、企業の内側にある可能性を引き出す
- 過去と未来の境界で、歴史と対応しながら、その先の未来を描く
- 短期と長期の境界で、持続可能な成長の土台を育てる
- 実践と知の境界で、手触りと実効性のある仕組みを作る
- 部分と全体の境界で、変化が波及する構造をデザインする