LT2:戦略の「通奏低音」
- 発表者:米山弘恭氏(株式会社はてな プロデューサー)
2番目に登壇した米山弘恭氏は、音楽用語だが、常に底流にある考え方や主張の例えとして用いられる「通奏低音」というメタファーを用いつつ、書籍から学んだプロダクト戦略を下支えする思考・行動の学びを提示しました。新規事業「toitta」を立ち上げ、正式版公開後の成長フェーズに至るまで、言語化し、実行して、磨き込むプロセスを支えた3つの「通奏低音」を、実践知とともに紹介しました。
一次情報で顧客に「憑依」し、特殊解を発見
米山氏は、戦略策定における最初の通奏低音として「血の通った文脈と一次情報」を挙げました。toittaチームは立ち上げ初年度に年間240件のインタビューを実施し、「憑依する」ほど一次情報に没入しました。これにより「顧客起点の特殊解」が浮かび上がり、社内ツールがそのままプロダクトへと進化していきました。
また、一次情報を基にした戦略のストーリーテリングにも言及。経営層との合意形成や、チーム内での熱量醸成では、定量指標だけでなく「因果でつながった読み物としての戦略ストーリー」を活用しており、それが高い納得感と行動の源になったと述べました。

小さく絞り、抽象と具体を往復する
2つ目の通奏低音は「徹底的に絞ること」、3つ目は「抽象と具体の往復運動」でした。米山氏は「発話のデータ分析に尖ったリサーチSaaS」としてtoittaのコンセプトを磨き込み、ワンストップではなく一点集中の提供価値にフォーカス。その上で、対話を軸にした仮説検証サイクルを高速で回すため、商談にも必ずインタビューパートを設け、録画データを活用した意思決定を実践しています。
さらに、抽象(Why)と具体(How)の往復を重視し、n=30以上のワークフローをマージした抽象モデルと、仮説マップ(上位・下位仮説ツリー)を連携させた設計を共有。仮説に基づいた施策と、その結果得られる知見を上下に行き来させることで、戦略の強度を段階的に高めていると語りました。

総括
米山氏の発表は、戦略を立てるだけでなく、それを実行し続けるために必要な行動がとても重要だということを改めて教えてくれる内容でした。特に以下の点がポイントです。
- 一次情報を徹底的に集めること:顧客へのインタビューなど、直接的な情報に深く関わることで、本当に必要な戦略が見えてくる。
- 戦略を絞り込むこと:多くのことをやろうとするのではなく、本当に重要なことに集中する。
- 仮説検証を高速で繰り返すこと:試してみて、結果を見て、改善するというサイクルを速く回す。
- 抽象と具体の往復運動:大きな目標と、具体的な日々の行動を結びつける。
これらは戦略が単なるドキュメントではなく、日々の意思決定と実践を導く「実用的なコンパス」となるための実践知といえます。戦略に再現性と強度を持たせたいすべてのPMにとって、学びの多い内容でした。