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ProductZine Day&オンラインセミナーは、プロダクト開発にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「ProductZine(プロダクトジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々のプロダクト開発のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

ProductZine Dayの第4回。オフラインとしては2回目の開催です。

ProductZine Day 2025

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イベントレポート

AIに「文脈」を。アトラシアンがJira/Confluenceのサイロ解体と「協働システム」で狙う、プロダクト開発プロセスの変革


「Jiraタスク起点の開発」から「顧客サポート連携」まで。新コレクション(Software/Service)と「Rovo Dev」が変えるSDLC

 Rovoが「全社共通」のAI基盤であるとすれば、現場の専門業務には、より特化したAI支援が必要となる。アトラシアンは、この課題に対し、役割別に製品とAI機能をパッケージ化した新体系「Collections(コレクション)」を発表した。

 ProductZineの読者にとって特に注目すべきは、「Software Collection」と「Service Collection」の2つである。

 「Software Collection(ソフトウェア・コレクション)」は、開発チーム向けのパッケージだ。最大の目玉は、開発者向けAIエージェント「Rovo Dev」である。これは、GitHub Copilotのようなコード補完AIとは一線を画す。Rovo Devは、開発の「起点」であるJiraチケットの文脈を深く理解することに特化している。

開発チーム向けパッケージ「Software Collection」
開発チーム向けパッケージ「Software Collection」

 渡辺氏が示したデモは、その実力を明確に示していた。「Rovo DevはCLI(コマンドラインインターフェース)で動作します。開発者がターミナルで『RDA-93(JiraタスクID)の実装を手伝って』と指示すると、Rovo Devが即座にJiraチケットの要件と文脈を読み込みます」

 さらにAIは、関連する既存コードを特定し、具体的な実装プランを提案。開発者が「承認」すると、AIがコーディングとテストを自動で実行し、完了すれば「自動でJiraのステータスを『レビュー中』に変更する」 という。

 これは、開発プロセスが「Jiraタスク起点」でAIによって自動化されることを意味し、SDLC(ソフトウェア開発ライフサイクル)全体に大きなインパクトを与える試みだ。

 もう一方の「Service Collection(サービス・コレクション)」は、従来のITSM(ITサービス管理)製品である「Jira Service Management」を、外部の「顧客サポート」領域にまで拡張する。

サービス管理チーム向けパッケージ「Service Collection」
サービス管理チーム向けパッケージ「Service Collection」

 新製品「Customer Service Management(CSM)」により、開発チームが使うJiraと、サポートチームが使うCSMが、単一のプラットフォーム上で直結する。

 「顧客からのフィードバックやバグ報告が、開発チームのバックログにシームレスに連携されます。これにより、プロダクトマネージャーは顧客の声を迅速にプロダクト改善に反映できます」 と渡辺氏は語る。

 この仕組みの有効性は、アトラシアン自身の導入事例が証明している。同社はCSMの導入により、サポートの初回解決時間が「8日から8分に劇的に短縮した」 という。

 プロダクトマネージャーにとって、CSMは顧客の声を開発プロセスに組み込む「フィードバックループ」を高速化する強力な武器となる。そして開発リーダーにとっては、Rovo DevがJiraチケットとコードを紐付け、開発プロセスのボトルネック解消に貢献する。アトラシアンの新戦略は、プロダクトマネージャーと開発者の「協働」を、AIによって新たなレベルへ引き上げようとしている。

KDDI事例に学ぶ「温かみのあるAI」。業務プロセスに溶け込ませ、創造的な時間を生み出す方法

 ここまでアトラシアンの「戦略」と「技術」を見てきた。では、これらを「実践」すると、現場はどう変わるのか。KDDI Digital Divergence Holdings株式会社 代表取締役社長 木暮圭一氏が、日本企業における大規模な実践例を語った。

KDDI Digital Divergence Holdings株式会社 代表取締役社長 木暮圭一氏
KDDI Digital Divergence Holdings株式会社 代表取締役社長 木暮圭一氏

 まず驚くべきは、KDDIがアトラシアン製品を活用するその規模だ。実に4000ID以上ものライセンスをData Center(オンプレミス)からクラウドへ移行し、全社的な情報基盤・協働基盤として活用している。

 木暮氏が示した成果は具体的だ。例えば、日々大量に発生するアラーム(障害通知)対応業務において、AIと自動化(Jira Service Managementなど)を組み合わせることで、対応工数を50%も削減することに成功。さらに、4000ID以上という膨大なアカウント管理業務を、自動化の仕組みを構築することで、実質1.5名という少人数で運用しているという。

 だが、木暮氏がセッションを通じて最も強調したのは、こうした数字や効率化だけではなかった。それは「温かみのあるAI」という、同氏独自の哲学である。

 「AIは冷たいものではなく、あくまで人間のパートナーであるべきです」と木暮氏は語る。「世間では『AIが仕事を奪う』と恐れる声もありますが、私はむしろ『AIが(良い意味で)皆さまを忙しくする』と考えています」

 この発言の真意は、AI時代のリーダーシップ論そのものだ。AIに定型業務やデータ分析を任せることで、人間は「作業」から解放される。その結果生まれた時間で、人間はより創造的で新しい仕事、つまり「人間にしかできない付加価値の高い仕事」に取り組むべきであり、そのために「忙しくなる」べきだ、というのである。

 さらに木暮氏は、日本のAI活用が「個人利用」のレベルに留まっているケースが多い現状に警鐘を鳴らす。チャットAIに質問するといった個人最適の活用を超え、アトラシアンのRovoが目指すような「業務プロセスそのものにAIを組み込む」アプローチこそが、組織全体の生産性を飛躍させる鍵だと強調した。

 プロダクト開発を牽引するリーダー層にとって、KDDIの事例は単なるツール導入の成功譚ではない。「AIを導入して、人間に何(どの創造的な仕事)をさせるのか」という、AI時代の組織論・人材育成論そのものである。アトラシアンが提供する「協働システム」という土台の上で、いかに「温かみのある」プロセスを設計し、メンバーの創造性を引き出すか。その実践が、今まさに問われている。

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この記事の著者

斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)

株式会社翔泳社 ProductZine編集長。 1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテック...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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