AIがコードを書く時代、プロダクトチームに問われる「人ならでは」の価値
AIの進化がソフトウェア開発における「ビルド」工程を劇的に効率化する一方、「そもそも何を作るべきか」という問いの重要性が増している。開発の差がつきにくくなる今、プロダクトの成否を分けるのは、顧客に真の価値を届けるための「プロダクトディスカバリー」の領域にほかならない。
アトラシアンの渡辺隆氏は「ディスカバリーは、戦略やビジョンの策定といった、人間の洞察力が求められる領域」と語る。しかし、その役割の遂行は決して容易ではない。事実、アトラシアンの調査によれば、グローバルで見てもプロダクトマネージャーの実に84%が「自社プロダクトが市場で成功しないのではないか」と不安を抱えているという。

いわんや、プロダクトマネジメントの文化が発展途上にある日本では、その課題はより深刻だ。現場や営業の声に応えるうちに「言われたものを作る」ことが目的化し、顧客への価値提供という本来の目的を見失う「ビルドトラップ」に陥るリスクが高い、と渡辺氏は指摘する。
AIには代替できない「人ならではの価値」をいかに引き出し、ビジネスインパクトを最大化するか。この重要なディスカバリーの考え方を深く理解し、その実践を支えるアトラシアンの哲学とソリューションに、本稿では迫っていく。
アトラシアンが実践する「真のプロダクトディスカバリー」とチーム体制
2002年の創業以来、アトラシアンは一貫して「チーム」と「顧客」を最重視する企業文化を築いてきた。その根幹には「オープンな企業文化」「お客様をないがしろにしない」といった5つのコアバリューがあり、社内の情報は原則すべて共有するという透明性は、同社のツール設計思想にも反映されている。
この文化を開発現場で体現するのが、プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアが三位一体で協働する「トライアドチーム」だ。従来の分業体制とは異なり、ディスカバリーの初期段階から三者が対等な立場で議論に参加。エンジニアは技術的観点を、デザイナーはUXリサーチ全体を担い、役割を超えて共創する。

「トライアドチームは、単なる分業ではなく、互いの専門性を尊重しながら共創することで、プロダクトの質とビジネスインパクトを最大化する土壌となっている」と渡辺氏は語る。
こうしたチームが実践するのが、明確に体系化された開発プロセスだ。すべては「Aプロダクトを◯年間で◯億円規模で販売する」といった「ビジネスゴールの明確な定義」から始まる。ゴール達成に向けた戦略立案では、「VMGSワンページャー」や「オポチュニティソリューションツリー」といったフレームワークを活用。これによりプロダクト戦略が可視化され、日本企業で課題となりがちな、経営層などのステークホルダーとの密な連携も可能になる。


戦略が定まると、多様な情報収集と分析から「インサイト」を導き出し、優先順位を付けていく「プロダクトディスカバリー」フェーズが本格化する。こうして定義された要件は「プロダクトバックログ」を経て「デリバリーバックログ」へと変換される。アトラシアンは、この一連のプロセスを徹底することで、単に「ものを作る」のではなく、「価値を創る」ことに注力しているのだ。