「未来に挑め」──大阪から始まる新しい波
「ついに、この大阪の地で開催できることを、うれしく思います」
実行委員の久津佑介氏の挨拶で、初の「pmconf 大阪」は幕を開けた。
久津氏は、pmconfがこれまで東京を中心に(あるいはオンラインで)開催されてきた経緯に触れつつ、「プロダクトマネジメントを日本全国へ普及させるためには、東京だけでなく地域ごとのコミュニティの熱量が不可欠である」と強調。完全オフライン開催となった今回、セッションでの学びはもちろん、会場での「出会い」と「対話」こそを持ち帰ってほしいと語った。
会場となったカンファレンスルームは、オープニングの時点で約150席ある座席(=1トラック分/計2トラックでの開催)の8割以上が埋まり、セッションが進むにつれて聴講者が増え、盛況ぶりを見せた。
スクリーンに映し出されたキーメッセージは「未来に挑め」。AIの台頭や市場環境の変化など、プロダクトマネージャーを取り巻く環境が激変する中で、変化を恐れず挑戦しようという力強いメッセージと共に、会場は静かな熱気に包まれた。
【視座】機能開発のプロから「事業の設計者」へ
トップバッターを飾ったのは、株式会社UPSIDERの森大祐氏と、BASE株式会社の柳川慶太氏による対談セッション「PdMから事業責任者へ ── AI時代に求められるPdMの視座と構造設計」だ。
本セッションの内容は、登壇者の柳川氏によってnoteでも一部事前公開されており、予習をして臨んだ参加者も多かったようだ。
議論の中心となったのは、「生成AIによって『作ること(How)』のコストが劇的に下がる今、プロダクトマネージャーの価値はどこへ向かうのか」という問いだ。
森氏は「AIを使えば、要件定義から実装までのプロセスは圧倒的に圧縮される。だからこそ、プロダクトマネージャーは『何を作るか(What)』、さらに言えば『なぜ作るか(Why)』という事業戦略の比重を高めなければならない」と指摘する。
これに対し柳川氏は、プロダクトマネージャーが次に目指すべき姿として「事業全体の構造設計(ビジネスモデルと組織)への責任を持つこと」を提言。「プロダクト(狭義のソフトウェア)だけでなく、それを生み出す『組織』や、お金の流れである『商流』そのものをプロダクトとして捉え、設計(デザイン)する必要がある」と語った。
「機能開発のリーダー」から、事業を勝たせるための「全体設計者(事業責任者)」へ。AI時代におけるプロダクトマネージャーのキャリアパスとして、より高い視座への「越境」が求められていることが示されたセッションだった。
【守り】「捨てる」勇気を仕組みに変える
続いて登壇したのは、Sansan株式会社の中村晋氏。「プロダクト負債と歩む:持続可能なサービスを育てるための挑戦」と題し、多くのプロダクトマネージャーが頭を悩ませる「機能の肥大化」への処方箋を示した。
中村氏はまず、一般的に語られる「技術的負債(コードやアーキテクチャの問題)」と区別し、不要な機能や複雑すぎる仕様による負債を「プロダクト負債」と定義した。
この負債は、プロダクトマネージャーの怠慢で生まれるものではない。初期の想定と市場の変化のズレによって「必然的に発生するもの」であると中村氏は語る。しかし、放置すれば開発速度を落とし、顧客体験を損なうことになる。
そこで提示されたのが、機能を削除(サンセット)するための具体的なプロセスだ。
特に会場の注目を集めたのが、機能を廃止すべきか判断するための「仕分けフローチャート」だ。
「プロダクトのコア価値に寄与するか?」「広く利用されているか?」という問いを分岐させ、客観的に「維持」「改善」「廃止」を判断するロジックが可視化されており、多くの参加者がそのスライドをスマートフォンで撮影し、熱心にメモを取る姿が見られた。
また、機能廃止を阻む「サンクコストバイアス(もったいない精神)」や「社内調整の壁」に対しては、事前に廃止プロセスを型化し、関係部署と合意形成を行うための具体的なステップ(廃止検討→合意→事業判断)も紹介された。
「機能を捨てることは、未来のユーザー体験を守るための投資である」。中村氏の言葉は、成熟期のプロダクトを持つプロダクトマネージャーにとって、明日からの実務に直結する強いエールとなったはずだ。
