プロダクトマネージャーに求められる、新しい判断軸
こうした背景から、プロダクトマネージャーが直面する判断領域も大きく変化しています。AI実装の意思決定は、もはや「技術的にできるか?」ではなく「ユーザーはどう理解し、どう主体性を持てるか?」という問いに変わりました。
1.自律性の最適な境界を決める
AIにどこまで任せるか、どこから手動にするか。ここはプロダクトマネージャーが最も慎重に扱うべき領域です。過度な自動化は不信感を生み、過度な手動操作は煩雑さを生む。そのプロダクトに最適な自律性の深度を見極める力が必要です。
2.UX負債は技術負債を上回る
AI時代、UX負債とは「認知の負債」です。
- ユーザーが誤った理解モデルを持つ
- 挙動と期待がズレ続ける
- 修正するとむしろ混乱が深まる
こうなると、技術よりもはるかに修復が難しくなります。機能ではなく理解の連続性に責任を持つ必要があります。
3.体験の重心を判断する
AI UXの三原則「透明性・制御感・フィードバック設計」は、プロダクトフェーズごとにどこを重視するかが変わります。
- 初期:透明性や制御感を強調
- 成熟期:フィードバックによる最適化を強化
- 事業拡大期:自動化の強度を上げ、体験の一貫性を担保
すべてを同時に最適化することは不可能です。だからこそプロダクトマネージャーは、体験の重心をどこに置くかを決断する必要があります。
デザインはプロダクトの前段に置くべき理由
わたしはこれまで、開発前・要件定義前の段階からプロジェクトに入ることが多くありました。AI時代に入ってからは、その重要性はさらに増しています。理由は明確です。
1.AIの価値は体験で決まる
AIの性能そのものは価値ではありません。価値は、ユーザーが「どう扱えるか」で決まります。
極端な話、UXが破綻しているなら、どれだけ優秀なAIでも価値はゼロです。だからこそ、技術より前に体験の設計が必要です。
2.UX設計がロードマップを規定する
AIプロダクトのロードマップは、UXの前提となる体験の構造を先に作らない限り成立しません。
- どの瞬間に人が介入するのか
- どこを自動化し、どこを任せるのか
- 理解モデルが矛盾しないように進化できるか
これらは後から付け足せるものではなく、最初に定義されるべきプロダクトの骨格です。
3.誤った体験の修復コストは想像以上に高い
AI UXでもっとも難しいのは、ユーザーが一度持った理解モデルを壊すことが非常に難しいという点です。だからこそ、最初に体験全体の設計を行い、「未来に起きる変化」と矛盾しないUXを作る必要があります。
デザインは「未来との整合性」を作る仕事
AI時代のUXデザインとは、単にいま見える画面を整えるだけではありません。プロダクトが今後どのように進化し、どんな体験として育っていくのかまでを見据え、現在と未来の橋渡しをする仕事です。
「プロダクトの未来の姿と、現在のユーザー体験のあいだに矛盾が生まれないよう整合性をつくること」
AIはアップデートやデータ蓄積によって“勝手に進化する”側面があります。一方で、人間の理解モデルは急には変えられません。一度身についた「こう動くはず」という期待が裏切られると、体験は途端に破綻します。だからこそデザインは、ただ「今を良くする」だけではなく、これから起こりうる変化を見越した認知の地盤づくりを行う必要があります。
そして、それを実現できるのは開発の後半ではなく、最初の段階=プロダクトの前段です。デザインとは、未来に続く体験の道筋に最初のレールを敷く仕事でもあるのです。
まとめ:AI時代の体験設計を共に探る旅の始まりとして
AIによって、プロダクトはかつてない可能性を手に入れました。しかしその翼がどちらの方向へ羽ばたくかを決めるのは、技術でもトレンドでもなく、あなたの意思決定です。

本当に向き合うべき問いは、人は何を理解し、何に安心し、どんな体験を求めるのか?という、人間の本質にあります。これからの連載で、UI/UX、AI、デザインの思想、プロダクト戦略の交差点にある「新しい体験設計」を定期的に一緒に探っていければと思います。
この記事が、みなさん自身の仕事やチームにとっての「次の一歩」を考えるきっかけとなれば幸いです。
それではまた次回、デザインの未来を一緒に探しにいきましょう。
