はじめに──「AIを使いこなす組織」こそ競合優位の鍵
前回(第3回)では、ABテストを行う前に成果をスコア化し、「なぜそのクリエイティブが当たるのか」を解き明かす技術を取り上げ、“広告制作のデータ活用”の進化を実感いただけたのではないでしょうか。
しかし、こうした先進的なAIを導入しても、それを扱う“組織”や“体制”が整っていなければ、投資が無駄になってしまうケースも少なくありません。実際に、優秀なエンジニアを採用しても、既存の業務プロセスと噛み合わず、せっかくのAIモデルが価値を発揮できずに終わってしまう。そんな事態が各所で起こっています。
連載最終回となる本記事では、AIをしっかりと“ビジネス価値”へ結びつけるための組織づくりをテーマに、株式会社リチカが提唱する「S.M.A.R.T.フレームワーク」を用いた開発手法を掘り下げます。経営層やリーダー層の方々にとって、AI開発による競合優位を実現するためのヒントをお届けできれば幸いです。
AI導入がもたらす組織へのインパクト ──「人との協調」が不可欠になる時代
AI導入のメリットをひと言で言えば、「人的リソースの解放」および「業務効率の大幅な向上」です。クリエイティブ制作であれば、アイデア抽出から成果予測、改善ポイントの把握まで、一気通貫で高速化を図ることができます。
しかし、その恩恵を得るためには、現場のクリエイターやマーケターがAIと対話し、改善案を検証・実装し、さらに結果をフィードバックしてAIを育てていくプロセスが不可欠です。つまり、AIを導入すれば“自動的に”正解が得られるわけではなく、「AIと人間がどう協調するか」によって成果が左右されます。
AIが示す“予測”や“生成結果”を、人間が納得して追認できる仕組みがなければ、社内合意は得られず、改善サイクルも止まってしまいます。結果として、導入したAIが“ブラックボックス”化し、“宝の持ち腐れ”になるケースは少なくないのです。
ワークフロー型思考がカギ──AIを組織に溶け込ませる“流れ”をつくる
AIツールの導入でありがちな失敗は「部分最適」です。制作チームだけが使いこなしても他部署にノウハウが共有されなかったり、現場の効率化と経営層の期待値にズレが生じたりするケースです。
こうしたミスマッチを防ぐ考え方が「ワークフロー型思考」です。「アイデア抽出→制作→事前予測→運用→結果分析→改善」という工程全体を俯瞰し、どこにAIを組み込み、どの段階で人間が介在するかという“流れ”を設計します。単なるツール導入ではなく、システム全体の連携を前提にすることで、AI導入のインパクトを最大化できます。
S.M.A.R.T.フレームワーク──AI時代の組織デザインとタスク配分
この「ワークフロー型思考」を実践に落とし込むために、弊社が提唱しているのが 「S.M.A.R.T.フレームワーク」 です。広告×AIの領域に限らず、あらゆるプロダクト開発・運用で応用できる考え方です。
S:Scope(スコープ定義)
多くのプロジェクトが失敗する最大の要因は、「とりあえずAIを使う」という目的の欠如です。「クリエイティブの量産による工数削減」なのか、「クオリティの標準化」なのか、あるいは「まったく新しい表現の創出」なのか。まずはプロジェクトの「北極星(ゴール)」と、誰がその成功を判断するのかを明確にします。関係者全員で「何のために使うのか」を合意することが最初の一歩です。
M:Mapping(業務プロセスマッピング)
次に、現状の業務フローを可視化します。重要なのは、作業手順だけでなく、現場メンバーの頭の中にある「思考プロセス」まで言語化することです。また、業務の価値を「機能的価値」と「情緒的価値」に分け、AIが得意な機能的領域と、人間が担うべき情緒的領域を切り分ける準備を行います。
A:Allocation(AIと人間のタスク配分)
マッピングした業務に対し、AI(データ分析・パターン生成など)と人間(発想・最終判断など)の役割を割り振ります。ポイントは「どちらか一方に任せ切りにしない」こと。適切な分担によって、それぞれの強みを最大化します。
R:Redesign(業務プロセス再設計)
役割分担に基づき、具体的なプロンプト開発や社内データ検索(RAG)、ファインチューニングなどの環境構築を行います。例えば「深い」「鋭い」といった現場特有の抽象的な感覚言語を、AIが理解できる具体的な指示に翻訳するスキルが求められます。業務のプロフェッショナルとエンジニアが対話し、現場が「使える」レベルまで精度を高めます。
T:Test(テスト&継続的改善)
AI活用に「完成」はありません。導入後も、現場からの「使いにくい」「精度が低い」といったフィードバックを即座に回収し、改善し続けるPDCAを回します。AIモデルも日々進化します。昨日できなかったことが今日はできるかもしれません。システムを固定化せず、常にアップデートし続ける柔軟な体制こそが成功の鍵です。
