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Developers Summit 2026 「Dev x PM Day」

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特集記事

AIコモディティ化時代の生存戦略:プロダクトを自ら壊し、「AIを核」に再定義せよ

 「既存のソフトウェアプロダクトはAIに飲み込まれるのか」——生成AIの急速な進化を背景に、こうした問いが業界を覆っています。既存のソフトウェアプロダクトの存在意義が問い直されているのは事実です。テックタッチで取締役CTOを務めている日比野です。私たちテックタッチも、あらゆるシステムの習熟・定着を支援する「デジタルアダプションプラットフォーム(DAP)」を提供するプロダクト開発事業者として、この問いと日々向き合っています。本稿では、不確実な未来に対して私たちがどのような思考フレームワークで備え、実際にどう動いているのかを共有します。

不確実な時代の羅針盤:シナリオ×時間軸×観察

 生成AIをはじめとするテクノロジーの指数関数的な進化により、ビジネス環境はかつてないスピードで変化しています。3年後、5年後の未来を正確に見通し、綿密な長期計画(ロードマップ)を立てることはもはや不可能であり、かえってリスクにすらなります。

 今、企業やプロダクト開発において生き残るための命綱となるのは、市場や技術のわずかな変化の兆しをいち早く察知し、走りながら柔軟に方向転換できる「俊敏性」です。ただし、単に闇雲に動くのではなく、「起こりうる未来」を想定した上で市場を注視する仕組みが欠かせません。この俊敏性を支える羅針盤となるのは、以下の2つの要素です。

  • 具体的な「シナリオ」の構築:「おそらくこうなる」という単一の予測ではなく、「AIベンダーに機能を代替される」「顧客が自社開発に回帰する」といった、起こりうる複数の未来(仮説)を具体的に描きます。この精緻な仮説があるからこそ、市場にあふれるノイズの中から「自分たちにとって意味のある変化の兆し」を的確に拾い上げることができます。
  • 時間軸の設定と継続的な「観察」:描いたシナリオに対して「それはいつ起きるのか(数か月後か、数年後か)」という時間軸を設定します。その上で、日々の技術動向、競合のリリース、顧客の反応などを継続的に観察し、どのシナリオが現実になりつつあるのかを常にすり合わせます。

 事前に用意した複数のシナリオを、市場の変化を検知する「センサー」として使い、定点観測しながら柔軟に軌道修正し続ける。このプロセスそのものが、これからのプロダクト組織に求められる必須機能だと考えています。

プレイヤーは誰か? 具体的な「シナリオ」作り

 では、シナリオは具体的にどう描けばよいのでしょうか。ここで注意すべきは、単純に「AIベンダーが既存のソフトウェアプロダクトを飲み込む」といった一面的な視点に陥ると、センサーの張りどころを誤るということです。プロダクト開発事業者(ソフトウェア開発企業)から見ると、AI時代の競争相手は、大きく以下の4つのプレイヤーに分かれます。

  • 既存競合:同じ市場にいる既存プレイヤーが、AIを武器にプロダクトを再設計してくる脅威。
  • AIネイティブ新興ベンダー:ゼロベースでAIを中心に設計し、既存市場を狙う企業。
  • 顧客企業の内製チーム:開発ハードルの劇的低下による、「外部のソフトウェアを買うのではなく自社で作る」という内製回帰の動き。
  • プラットフォーム提供者(AIベンダー):OpenAIなどの基盤モデル開発企業が、周辺プロダクトの機能を取り込む動き。

 この4つのプレイヤーはそれぞれ異なる角度から既存プロダクトを脅かします。従って、シナリオは単一の予測に頼るのではなく、各プレイヤーが引き起こす多層的なディスラプションとして描く必要があります。

 ここでは、議論の骨組みとなる5つの「シナリオの軸」を提示します。

  • 既存競合による、AI前提のUX再設計:競合他社がプロダクトの根幹からAIファーストでUXを再設計し、既存の顧客基盤と営業力をテコに競争バランスを一変させるリスク。
  • AIネイティブ新興ベンダーによる圧倒的な高付加価値:しがらみのないスタートアップが生成AIをフル活用し、「操作不要」のようなパラダイムシフトで既存製品を一気に陳腐化させるリスク。
  • 新興ベンダーによる破壊的価格(コモディティ化):AI活用で開発・運用コストを極限まで下げた新興企業が、同等機能を破壊的低価格で提供し、収益モデルそのものを崩壊させるリスク。
  • 顧客企業の「内製化」回帰:AIコーディングアシスタントやノーコードツールの普及により、顧客が「自前で作った方が早い」と判断し、プロダクト開発事業者の提供価値が薄れるリスク。
  • プラットフォーマーによるSherlocking(※1)と地殻変動:OpenAIやGoogleのような巨大企業が周辺ソフトウェアプロダクトのコア機能を自社に内包する、あるいは汎用AIエージェントが「アプリを立ち上げる」行為自体を不要にするリスク。
シナリオとプレイヤー
シナリオとプレイヤー

 シナリオを描いたら、次はそれぞれに時間軸を重ね、どこにセンサーを張るかを決めていきます。次章では、テックタッチが実際にどのシナリオに重きを置き、どう動いているかを紹介します。

(※1)OSやプラットフォーム側が標準アプリとして同等機能を提供し、サードパーティのアプリを陳腐化させること。

テックタッチの実践:どこに、どうセンサーを張るか

 私たちは5つのシナリオのうち、「既存競合によるAI前提のUX再設計」「AIネイティブ新興ベンダーの台頭」「プラットフォーマーによるSherlocking/地殻変動」の3つに重きを置いています。一方、価格破壊と内製化への回帰は、DAPの特性を踏まえてスコープから外しました。

 DAPはエンタープライズの業務システム(SAP、Salesforceなど)の上に重ねて動作し、導入支援・操作ガイド・利用分析を提供するプロダクトです。顧客の購買決定要因は価格よりも既存システムとの統合の深さやカスタマーサクセスの質にあり、単純な価格勝負にはなりにくいです。

 また、DAPの価値は複数システムを横断した「全社的な定着の仕組み化」にあるため、IT部門が個別に内製する動機やスコープとも合いません。戦略とは「何をやらないかを決めること」でもあります。

セルフディスラプト
セルフディスラプト

 重要なのは、ここでいう「センサー」が単なる受動的な市場調査ではないという点です。テックタッチでは、注視すべきシナリオごとに独立した開発チームを組成し、プロトタイピングで手を動かしながら検証を続けることで、想定外の死角をなくす体制を敷いています。

 さらに、センサーを張って変化を察知するだけでは受け身の対応に終わります。各シナリオの脅威を「自分たちの存在意義を再発見する機会」と捉え、攻めのプレイヤーとして自ら仕掛ける側に立つことが重要です。

 その具体例が、2024年にリリースした「Techtouch AI Hub β版」です。既存プロダクトの制約を受けない独立した実験場として立ち上げ、「各社の実験的な取り組みとその結果」「AIのビジネス活用の本当の課題」「その上で僕らができること」などを考え、従来のDAPの限界を超えるUXを最速で顧客にぶつけました。この検証を通じて得たのは、AIが単なる補助機能ではなくDAPの体験そのものを再定義する中核になるという確信と、「回答・提案」から「業務の代行(エージェント)」へと地続きに進化していく手応えでした。

 この確信に基づき、2025年2月にAI Hubの機能をテックタッチ本体へ統合し、プロダクト全体を「AIファースト」へと進化させる土台を完成させました。まずは外で壊しながら作り、価値が証明されたものを本体へ統合する——このサイクルこそが、私たちが実践しているセルフディスラプト(自己破壊)の形です。このプロセスでは、『ブラウザエージェントが主流になるのは2年後か、あるいは半年後か』といった時間軸の仮説をプロトタイプの反応から常に検証し、投資判断の精度を高めています。

セルフディスラプトのサイクル
セルフディスラプトのサイクル

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実現するためのプロダクト組織体制へのシフト

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この記事の著者

日比野 淳(テックタッチ株式会社)(ヒビノ ジュン)

テックタッチ株式会社 取締役CTO ファンコミュニケーションズ、ユナイテッドでCRMの開発、広告ネットワーク構築、大規模toCアプリの立ち上げからグロースを経験。その後、米国に赴任し現地スタートアップと協業しモバイルランチャーアプリの立ち上げに従事。2018年3月に代表取締役の井無田とテックタ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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