- 書籍『カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで』
- 書籍『チーム・ジャーニー 逆境を越える、変化に強いチームをつくりあげるまで』
- 書籍『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー 組織のデジタル化から、分断を乗り越えて組織変革にたどりつくまで』
- 前回の記事:第1回「プロダクトで価値を出すために最初に答えるべき問いとは?【はじめてのプロダクト・ジャーニー】」
プロダクトの仮説がなぜ浅くなるのか?
この物語の主人公は、プロダクトマネージャーを志望する名越(なごし)さん。新たにプロダクトを作り始めるために結成されたチームに所属しています。
名越(なごし)
この物語の主人公。もともとは大きな企業にいたが、プロダクトマネジメントの経験を積みたくて転職してきたプロダクトマネージャーの見習い。ソフトウェア開発の経験はほとんどない。
チームメンバーは同期の小袋(こぶくろ)くんと、後輩の朝比奈(あさひな)さんの3名。プロダクトの立ち上げ企画はスタートを切っていますが、数ヶ月が経過してもろくにアウトプットも成果もありません。暗雲が立ち込め始めていたところに、新たにマネージャーの袖ヶ浦(そでがうら)さんがやってきました。
「また、袖ヶ浦さんにダメ出しをもらっちゃいましたね!」
袖ヶ浦さんとのミーティングを終えて、一番最初に口を開いたのは朝比奈さんだった。僕が意気消沈しているように見えたのだろう。必要以上に明るい声を出しているように見える。
朝比奈(あさひな)
チームの中では最年少。ソフトウェア開発の経験はなく、デザイン制作を少しかじっている。ひときわ明るい声がチームのムードメーカーになっている。
「……そうだね。全く前に進んでいかないね」
僕は思った以上に自分の声が曇っていることに気づいた。袖ヶ浦さんとの仮説キャンバス(※1)を使ったミーティングはもう3回を数えている。今回もほとんど進捗はなく、いくつかの指摘をもらって終わっただけだった。この繰り返しに、気持ちも落ち込んでくる。
(※1) 「仮説キャンバス」について、詳しくは『カイゼン・ジャーニー』の第24話などを参照のこと。
「袖ヶ浦さんの指摘は的を射ているように思うけどな」
小袋(こぶくろ)
名越より年下だが同じ時期に転職してきたプログラマー。もともとは受託開発の会社にいたらしい。口数は少ないが、自分の意見はしっかり言うタイプ。
小袋くんは、あまり気を落とすこともなく、いつもと変わらず淡々としていた。その様子にどこか余裕のようなものを感じて、僕は苛立つ気持ちが湧いてきた。
「2人はただミーティングに参加して座っていれば良いかもしれないけど、こっちは毎回あの人の矢面に立たされているんだ」
「そうですよね、名越さんすいません。でも、こちらから何も言えずに終わってしまうんですよね」
そう、こちらが何か言う前にミーティングは終わってしまう。袖ヶ浦さんはキャンバスをひと目みたら後は一方的にダメ出しするだけ。あまりにも素っ気ない言い方に何も言い返すことができないでいる。
「……今回は、『仮説が浅い』だったな」
「仮説キャンバスで仮説を立てる際は、以下のようになっていないか留意しましょう」
- 記述がキーワードレベル、一言レベルになっている
- 一つのエリアに仮説が一つ、二つしかない
- 単なる感想や疑問の羅列になっている
- ユーザーではなく自分たちの状況や課題を書いてしまっている
- 各エリアの間で辻褄があっていない(「状況」に挙げているユーザーとは別の対象の「課題」を書いているなど)
「簡潔に仮説を表現しようとするのは良いことですが、あまりにも端的な記述では何も表せていないのと等しくなります。仮説を立てる初期においては、さまつに思えることでも、いったん挙げておいて、その後重要性の低いものを落とすといった整理を行うと良いでしょう」
袖ヶ浦(そでがうら)
元役員で、時間ができたからチームの面倒を見ることになった。冷たい雰囲気が漂う。