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ストーリーで学ぶプロダクトづくり「はじめてのプロダクト・ジャーニー」

プロダクトで価値を出すために最初に答えるべき問いとは?【はじめてのプロダクト・ジャーニー】

ストーリーで学ぶプロダクトづくり「はじめてのプロダクト・ジャーニー」 第1回


 この連載では、「プロダクトマネジメント」と「プロダクトチームの運営」についてお伝えしていきます。下敷きに置いているのは、書籍『カイゼン・ジャーニー』『チーム・ジャーニー』『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー』です。これらの書籍ではまだ語られていない、プロダクト作りに必要なプラクティス(工夫)や観点についても扱っていきます。読者の皆さんが本連載で紹介するプラクティスをどういうときに、どのように適用すれば良いか分かるように「ストーリー」と「解説」を織り交ぜながら進行していきます。

プロダクトなのに仮説がない?

 この物語の主人公は、プロダクトマネージャーを志望する名越(なごし)さん。新たにプロダクトをつくり始めるために結成されたチームに所属しています。プロダクトの立ち上げ企画はスタートを切っていますが、3ヶ月が経過してもろくにアウトプットも成果もなく、暗雲が立ち込め始めています。物語は、テコ入れのためにやってきた新たな参画者を迎えるところから始まります。

「新しくやってくるマネージャー、どんな人だろう」

 僕は、こじんまりとした会議室にいる。他にはチームメンバーの朝比奈(あさひな)さんと、小袋(こぶくろ)くんの2人。ここまで新プロダクトの企画をこの3人で進めてきた。上手くいっていないのは明らかで、会議室の雰囲気もやや重たくなっている。そんな空気を振り払うために第一声をあげたつもりだった。

名越
名越(なごし)

この物語の主人公。もともとは大きな企業にいたが、プロダクトマネジメントの経験を積みたくて転職してきたプロダクトマネージャーの見習い。ソフトウェア開発の経験はほとんどない。

「……」

小袋
小袋(こぶくろ)

名越より年下だが同じ時期に転職してきたプログラマー。もともとは受託開発の会社にいたらしい。口数は少ないが、自分の意見はしっかり言うタイプ。

 同僚の小袋くんは視線を自分の手元に落として、キーを打ち続けている。新しいマネージャーがどんな人かなんて、小袋くんだって知らない。答えられないから答えないのだろう。

「なんかもともとはすごい偉い人だったらしいですよ。最近、役員を降りて時間ができたからこの仕事を手伝うことになったって聞きました」

 代わりに返事をしたのは朝比奈さんだった。いつもは明るい朝比奈さんも、何か慎重に言葉を選んでいるようだった。

朝比奈
朝比奈(あさひな)

チームの中では最年少。ソフトウェア開発の経験はなく、デザイン制作を少しかじっている。ひときわ明るい声がチームのムードメイカーになっている。

 そんな会話で時間を潰していると、ようやくお目当ての人がやってきた。役員をやっていたというからもっと年上かと思ったらそうでもない。この会社自体が、まだ設立して数年しか経っていないから、経営層も若いのかもしれない。

「袖ケ浦です。話は聞いていると思います。さっそく、このプロダクトの企画について確認をしたいと思います」

袖ヶ浦
袖ヶ浦(そでがうら)

元役員で、時間ができたからチームの面倒を見ることになった。冷たい雰囲気が漂う。

 

 そう言って袖ヶ浦はさっそく仕事の話をはじめた。僕たち3人は呆気に取られてしまった。どうみてもやりにくい相手になりそうだ。

「あ、はい。企画書を映します」

 僕はプレゼンテーション資料をモニターに映し出して、説明をはじめようとした。ファイルを開いて、プレゼンモードにしようとした瞬間、袖ヶ浦さんがその動きを制止した。

「課題の仮説は何ですか」

「……課題の、仮説?」

「……」

「仮説って、何でしょうか?」

 僕らを代表して質問してくれた朝比奈さんの逆質問に袖ヶ浦さんは応えることなく、話し始めた。

「そんな厚みだけあるプレゼン資料を見せられても、企画の本質は見えてきません。その質問を返してくるということは仮説も立てていないようですね。そんな状態ではこの先何ヶ月かけても、プロダクトづくりは始まりませんよ」

 そういって、袖ヶ浦さんはオンラインホワイトボードツールのURLをチャットで送ってきた。

「今日はこれから、仮説キャンバス(※1)で現時点の仮説を立てるところまでやります」

仮説キャンバス
仮説キャンバス

(※1) 「仮設キャンバス」について、詳しくは『カイゼン・ジャーニー』の第24話などを参照のこと。

 僕は仮説キャンバスを前にして、身を固くした。埋められる気がしない。それは他の2人も同じだったのだろう。ホワイトボードツールにはログインはしたものの、何もできないでいる。そんな様子をみて、袖ヶ浦さんは淡々と問いかけ始めた。

「みなさんが相手にしようと考えている人たちが認識している、解決したい課題とは何ですか」

「……バックログの管理ツールです。私たちはアジャイルがもっといろいろな業界の現場でも広められると思っています。そのために、ソフトウェア開発の現場だけではなく、他の業界の人たちでもバックログ管理ができるようにしたいと考えています」

 小袋くんが一矢報いるように答えた。そう、僕たちに共通しているのは「アジャイル開発」なのだ。といっても、今はまだ「アジャイル開発をやれるようになりたい」というワナビー(want to be)でしかない。小袋くんも、朝比奈さんも、それぞれアジャイル開発への思い入れがあって、今回のプロダクト企画の中心に据えることだけは真っ先に決まったのだった。

「それも質問には答えていることにはならないですね。問いは、“解決する課題”です」

 そう言って、袖ヶ浦さんはホワイトボードツール上に円を書き始めた。

次のページ
プロダクトをつくる上で、最初に答えるべき問いは?

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この記事の著者

市谷 聡啓(イチタニ トシヒロ)

株式会社レッドジャーニー代表 サービスや事業についてのアイデア段階の構想からコンセプトを練り上げていく仮説検証とアジャイルについて経験が厚い。プログラマーからキャリアをスタートし、SIerでのプロジェクトマネジメント、大規模インターネットサービスのプロデューサー、アジャイル開発の実践を経て、自らの会社...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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