プロダクトビジョンは作って終わりではなく、作ってからがスタート
在シリコンバレー16年以上となる曽根原氏は、現地のビッグテック企業、スタートアップ企業、B2B/B2Cと、さまざまな分野でプロダクトマネジメントとグローバル市場展開を経験し、現在はLinkedInの米国本社でシニアプロダクトマネージャーを務めている。
曽根原氏は講演の初めに、「こんな『プロダクト病』に陥っていませんか?」と問題提起した。プロダクトマネージャーには、日々各方面からいろいろな声が寄せられる。それに対して「どの声ももっともだ。全部やらないとまずい」と思いがちだが、それこそが「プロダクト病」であり、非常に良くないことだと曽根原氏は指摘する。
プロダクト病はいくつか種類があり、その一つが「戦略肥大症」だ。次々と舞い込んでくるアイデアや要望につい「イエス」と言ってしまい、どんどんプロダクトが総花的になる。最後には何から手をつけるべきか分からなくなり、プロダクトが健全に進化していく妨げになってしまう。
2つ目は「強迫性セールス障害」だ。営業が契約を取るために機能の実装を依頼する場合がある。特定の顧客用に機能をカスタマイズできないかと言ってきたときに、営業の言いなりになってしまうと、プロダクトが個別の顧客に最適化された機能ばかりになってしまう。そうなるとプロダクトとしての統一感を失ってしまう。
プロダクト病には他にも「ロックイン症候群」「ヒーロー症候群」「数値指標依存症」「ピボット症候群」「ナルシスト症候群」など7種類あるという。曽根原氏が監訳した書籍『ラディカル・プロダクト・シンキング』(ラディカ・ダット著、曽根原春樹訳、翔泳社)では、それぞれのプロダクト病について詳しく説明している。
では、なぜこのようなプロダクト病に陥ってしまうのだろう。曽根原氏は、その理由は3つあると説いた。
1つ目は「プロダクトビジョンがそもそもない」こと。プロダクトビジョンがないと、直近のやることは見えていても、どこを目指しているのかが分からなくなる。これはプロダクトを作るにあたって非常に危険な状態だ。目の前のやることだけをこなしていては、プロダクトは正しい方向に進化していかない。プロダクトに携わる人たちが、このプロダクトがどう進化するのか分からないまま仕事をしていると、プロダクトの成長を大きく阻害してしまう。
2つ目は「プロダクトビジョンの使い方が分からない」こと。プロダクトビジョンは作ったが、それが社内に浸透せずに埃をかぶっているという状態だ。プロダクトに携わる人たちが同じプロダクトビジョンを持って理解しているということが、プロダクトの統一性を保つ上で非常に重要だ。
3つ目は「プロダクトビジョンが組織に浸透していない」という理由。プロダクトビジョンはあるものの、目前でやらなければならないことに流されてしまい、各人・各チームがバラバラに動いているという状況では、ビジョンが生かせない。
これらの理由から曽根原氏は、「プロダクトビジョンは作って終わりではなく、作ってからがスタートです」と述べた。