本記事は、ソフトウェア開発者向けのオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」からの転載記事です(オリジナル記事)。
「バズる」サービスの着想や実装、その育て方とは
対談は「ボケて(bokete)」「eventos」「Live!アンケート」など、人気モバイルアプリをリリースし続けるbravesoft株式会社の代表取締役CEO 菅澤英司氏に、エンジニアを目指す秘訣を、 AKKODiSコンサルティング株式会社の常務執行役員 兼 CTOテクノロジー統括 前田拓宏氏と、キャリアリクルーティング第1部 部長 國司壮太郎氏が問う形で開始された。
「ボケて(bokete)」は、画像に対してユーザーがボケを投稿するエンターテインメントアプリ。700万ダウンロードを達成し、ボケの総数は1億を超える。「eventos(イベントス)」は、ノーコードでイベント用サイトが作れる。東京ゲームショウや東京ガールズコレクションなど、7000件以上のイベントで利用され、2022年にはグッドデザイン賞を受賞している。「Live!アンケート」は、その場で投票や質疑応答ができるアプリで、3年間で1万社、400万人が利用している。
AKKODiSコンサルティングの國司氏は菅澤氏に、バズる(=話題・人気となる)サービスを生み出す秘訣を聞いた。菅澤氏は「Live!アンケート」誕生の背景を語り、「社内で、『こんなのあったら面白いね』という話から、あるエンジニアがプロトタイプを作ってきたんです。それを触ったら『いいな』という声が多く、早速、企画とデザインを行い、3か月でリリースしました」と、企画からリリースまでの流れを説明し、「ウチらしいです」とも述べた。
菅澤氏が手掛けるアプリは、まとまった企画書から生まれるものばかりではない。最初はコンセプトや核となる部分が分かる簡単な資料を用意し、その後は「みんなで『これ作りたいよね』といったら、バアっとそこに皆が走っていって作り込んでいくということが多い」と菅澤氏は説明した。
bravesoftにはこのように「作って、使って」という文化がある。実際、社内ツールなども社内エンジニアが作ってメンバーが使って改善していく。同社受付のiPadアプリは菅澤氏のお手製だ。國司氏は、このような創作を許容する文化は大事だとし「作って皆で使うのは、それだけでも楽しい」と賛意を示した。
bravesoftは創作活動に対して表彰したり、社内でたくさん利用された場合は、頻度に合わせたボーナス支給などを行ったりしている。生み出した価値に対価を支払うのだ。もちろん「作ってみたけれど、いまいち。ボツになったものもある」と菅澤氏は加え、全部が全部うまくいったわけではない点をつけ加えた。
AKKODiSコンサルティングの前田氏も、創作の文化や報償への配慮はエンジニアを育成する環境では大事だと語る。AKKODiSコンサルティングは、エンジニア創出のために2023年春に「AKKODiS innovation Lab」という設備の設立を予定しており、そこではエンジニアがユーザーも含めて対話しながら、いろいろなサービスや製品が作れる環境を目指している。前田氏はその責任者であり、今回の対談もこのAKKODiS innovation Labに役立てたいとしている。
なお、「ボケて(bokete)」は、bravesoftだけでなく他2社との合同プロダクトである。当初はWebサービスとして立ち上げたところにbravesoftがアプリ化を提案、テレビ局在籍だった知り合いを巻き込み、エンターテインメント性を磨いて市場に投入したのだ。「ボケて(bokete)」は話題となり年々ダウンロード数を重ねていった。
菅澤氏は「自社だけでは限界は絶対ある。だから、いろんな人たちといろいろ作っていきたい。バックグラウンドが違うと面白いアイデアが出ます」と振り返った。成功にはさまざまな視点や意見も必要だ。
ITエンジニアとして突き抜けるには
続いて國司氏は、エンジニアとして突き抜けるにはどうすべきか、何に注意し、どう技術を習得し、最初はどんな技術にトライするのが良いかを聞いた。
菅澤氏は何に注意するかという部分では、自らが運営するYouTubeチャンネル「エンジニア勉強会 - つよつよch」から得た学びを紹介した。それは「動き出すなら速く」だ。プログラミング言語Rubyを開発したまつもとゆきひろ氏と対談したときも「速く」が話題になった。菅澤氏は、何かを成した人は「学生時代から仕事としてプログラミングに向き合っていた、ずっとやってきた人がすごく多かった」と言い、自身も同じだったと加えた。
そして「量」も重要だ。とにかく仕事として没頭し、コードを書く経験が重要だという。「勉強のための勉強というよりは、仕事としてのエンジニアリングを、早い段階からプレッシャーの中でやることが、すごくいいと思います」(菅澤氏)。
社会人になったあとに経験を積むのも問題ない。bravesoftにはIT技術未経験で入社し、その後エンジニアとして活躍している人がいる。菅澤氏は、「ITエンジニアとしてやっていこうと思ったとき、周りに同じように考える仲間がいて『一緒にこれ作ろう』と言える環境、スクールのような設備があれば成長できると思います」と環境の大切さを伝えた。
bravesoftでは「やったことのないことをやってもらうのは大切」として新しい経験を積むことを奨励している。新しい言語の習得や、フロントエンドができたらバックエンド、未経験からネイティブアプリなど、挑戦の機会があるのだ。菅澤氏は「周りが助ける、教えられる。お互いに教える空気があれば、未経験への挑戦でも一気に習得できます」と語った。
前田氏も菅澤氏の「教えあえる」に共感する。AKKODiSコンサルティングでは多様なトレーニングメニューを用意していて、遠隔でも全国の社員がいろいろ受講できる仕組みや、今年からは個別に支援する体制を検討している。一人で目標を立てて、一人でやり切るのが難しいと感じる人は多い。そのため個々人の進捗を確認し、必要なら「頑張っている?」と声をかけて支援する仕組みがある。
前田氏はエンジニアの成長について「自分がエンジニアとしてどうなりたいのかを、ちゃんと持つ。そこが根本で大事と思います」と述べた。國司氏も「内発的動機──『こうありたいと』思うことが、とても大切」と加えた。
ITエンジニアとしてスタートしたいなら、まずどうする?
ITエンジニアになろうと考えたとき、まずは何から始めれば良いのだろうか。
菅澤氏は「フロントエンドがおすすめ」という。Webのフロントエンドには、JavaScript、React、Vue.jsなど、参入しやすい技術がいろいろと出てきている。これらの技術を使うと比較的容易にWebサイトやWebアプリの画面ができるから、ブログサイトやゲームを作って試してみればいいというのだ。
作ってみて、自分が興味を持って「もっと作ってみたい」と思えるテーマが見つかったら、それをJavaScriptなどで最短距離で作る。菅澤氏は「作っていくうちに楽しくなってきたら、どんどん成長していける」とコメントした。
プロジェクトマネージャーかスペシャリストかという選択について
エンジニアとして成長すると、職種の選択という曲がり角が待っている。プロジェクトマネージャーを目指すべきか、技術のスペシャリストかといった選択は、エンジニアの中でも常に交わされる話題だ。
菅澤氏は、一般にプロジェクトマネージャーのほうが業務全体の成果が目に見えて頑張りがいがあるため、評価され過ぎないように注意しているという。
「スペシャリストもしっかり評価されることは大事と思います。bravesoftでは、スペシャリストも、チーフといった役職が付き階級が上がると、マネージャー同等の給料を提供します」(菅澤氏)。
AKKODiSコンサルティングも同等で、スペシャリスト向けの給与体系がある。國司氏は「マネージャーは、マネジメントするというスキルのスペシャリスト」と述べ、プロジェクトマネージャーとスペシャリストといった職種に差はなく、それよりも「何かに突き抜けることは、市場価値をより高めていく上では、とても大事と感じる」と加えた。
前田氏も、今は専門性に対する価値が相対的に高いと言われるが「専門性が大事なら、そこをいかに伸ばせるかということがポイント」と述べた。
最後に菅澤氏は、これからITエンジニアを目指す人に対し次のようにアドバイスし、対談を締めくくった。
「僕がプログラミングを始めた頃は分からないことだらけで大変な時期もありました。そこで続けてめちゃくちゃやって、乗り越えて、今はすごく楽しいです。自分たちが作ったものを何百万人も使ってくれて、また新しいものを考えて作って広がっていくと期待が持てる環境が楽しく充実していれば、最初の1〜2年を乗り越えられるはずです。ぜひ頑張っていただきたいです」
なお、AKKODiSコンサルティングは総合人材サービス企業であるAdecco Groupに参加しており、Adecco GroupがAKKA Technologiesの発行済み株式の過半数を取得したことから、当時のModis株式会社と統合し、2023年4月1日付で「AKKODiS (アコーディス)コンサルティング株式会社」へと社名変更されている。