LT2:爆速プロダクトディスカバリーを実現する「開発しない仮説検証」のすすめ
概要
- 登壇者:株式会社スマートバンク 稲垣慶典氏
- 資料
プロダクトディスカバリーのスピードを上げるための「開発しない仮説検証」について、具体的な実践方法と効果が紹介されました。特に、開発しない検証を取り入れるための工夫として「もう一つのMVP」という考え方が提唱され、詳細な解説がありました。
「もう一つのMVP」という考え方
従来のMVP(Minimum Viable Product)をさらに活用するための考え方として、「もう一つのMVP(Minimum Verifiable Product)」という考え方が提示されました。これは、検証したいことを絞り、検証アクションをとにかく小さくすることで、試行回数を増やし、得られる情報量を増やすプロセスを指します。
価値仮説があいまいな状態で従来のMVP検証を実施しようとすると、意図せずMVPが肥大化し、結果的に検証に時間がかかってしまうという課題意識が挙げられました。このもう一つのMVPを通じて「検証可能な最小単位」を目指すことで、「開発しない仮説検証」を選択しやすくなり、プロダクトディスカバリーのスピードを大幅に向上できるのではないかと主張されました。
開発しない検証の実践例
もう一つのMVPを活用した「開発しない検証」の事例として、スマートバンク社における新規機能の探索的な取り組みが紹介されました。事例を通じて、以下のポイントが挙げられました。
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検証項目の最小化
- 価値仮説を、ターゲット/課題/ソリューション/体験/マネタイズなどの観点ごとにさらに細かい検証項目に分解します。そして、小さくなった検証項目単位で開発せず検証できそうなものを洗い出します。
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人力での提供
- Googleフォームなどのツールを組み合わせて、検証しうる疑似体験を提供し、ユーザーの反応を観察します。
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パターン検証とインタビューの並行実施
- 複数のパターンを同時に検証し、反応のあったユーザーにインタビューを実施して、それぞれに対するユーザーの反応を比較分析します。
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仮説検証マップの作成
- 全体像を可視化し、検証の進捗を管理します。各検証項目の状態(未検証、検証中、検証済み)や結果を一覧で把握できるようにします。
得られた成果と学び
もう一つのMVPを通じて「開発しない検証」を取り入れたことにより、以下の具体的な成果が得られました。
- 動き出しから1か月弱で価値仮説の確認が可能になりました。当初計画していた方法では3~4か月かかっていた検証プロセスが大幅に短縮されました。
- ユーザーや課題に対する解像度が著しく向上し、ターゲットユーザーの具体的な行動パターンや、課題を感じる具体的な場面などがより明確になりました。
一方で、「開発しない検証」特有の課題もあるとのことで、それらに対する対策として以下が紹介されました。
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デザイナーと協働すること
- 意図した検証をできるようにするために情報設計が重要になる。
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PMが作業しすぎないよう注意が必要
- PMが「作れる」部分が多く、ついこだわってしまいMVPが肥大化する危険性がある。
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チームのモメンタム維持
- 小さな検証を繰り返すなかで心身ともにチームに負荷がかかるため、モメンタムを維持する工夫が重要になる。
最後に、「開発しない検証」は、かかる時間と得られる発見の多さを踏まえるとコストパフォーマンスの良いディスカバリー手法であり、初期段階のプロダクトディスカバリーで積極的に活用できると良いのではないかと主張されました。
総括
「開発しない仮説検証」を取り入れることができれば、プロダクトディスカバリーのスピードと効率を劇的に向上させられるでしょう。そのために、従来のMVPをより上手に活用するための「もう一つのMVP」という考え方を通じて、検証したいことを小さく捉える工夫が重要になります。小さく捉えることで、開発しなくても検証できる方法を見つけることができ、ユーザーニーズに合致したプロダクトを素早く市場に投入できる可能性が高まります。